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パナソニック教育財団 第37回実践研究助成 

  Ⅲ 苦手さの捉え方  
   1.  新しい障害観  
      近年、障害の捉え方が変わってきている。特に、学校現場における支援の考え方としてICFが取り入れられている。ICF(International Classification of Functioning、 Disability and Health)は、日本語では、「国際生活機能分類」と訳されている。文部科学省はこれを「人間の生活機能と障害に関する状況を記述することを目的とした分類であり、健康状態、心身機能、身体構造、活動と参加、環境因子、個人因子から構成される」と説明している。図1は、このICFの基本概念を示したものである。また、ICFの各要素の定義は表1の通りである。特に、ICFの考え方で重要になるものが、「環境因子」である。これは、「人々が生活し、人生を送っている物的、社会的、態度的環境」とされ、言い換えれば、私たちを取り巻く全ての人や物と言える。これらの環境因子を効果的に活用することで、「活動」や「参加」を実現可能なものにする取組である。例を挙げれば、視力が低い人が遠くの物を見るために眼鏡(環境因子)を使っていることと同じである。学習場面では、書くことの苦手さに対して、携帯電話のメモ機能やパソコンのワープロ機能を使って文字で表現することになる。このように、「環境因子」として身の周りにある様々な人、物を活用することで、対人関係や学習に困難をきたしている児童生徒の支援を充実させることができると考える。  
     
図1 ICFの概念図 (佐賀県教育センターで作成)
 
      このICFの考え方を用いることで、学校現場における児童生徒とのかかわり方も明確になる。これまでのように、児童生徒が生まれながらにもち得た能力により評価されるのではなく、周りでかかわる者が、児童生徒のできない状況を把握し、いろいろなツール(環境因子)を提供した後に、その行動に対して評価をすることになる。つまり、児童生徒の苦手さは、周りの支援者の働き掛け次第で、その改善、克服を図ることになり、支援を充実させていくことで児童生徒の学習や生活への意欲を向上させることにつながると考える。
表1 ICFの各要素の定義


 
      このような視点に立つと、不登校児童生徒が抱える「対人関係の苦手さ」や「学習不振」についても(図2)、その背景を理解し、一人一人の特性に応じた支援を心掛けていくことが重要となる。学校への「参加」を実現するためには、友達とのかかわりや学習等の「活動」に誰もが取り組むことができるような状況を児童生徒にかかわる者が提供していかなければならないと考える。  
図2 不登校児童生徒が抱える課題
 
       
   2. 不登校児童生徒の対人関係の苦手さについて  
      教育センターにおける来所相談や「しいの木」に通う不登校児童生徒に見られる「対人関係の苦手さ」の背景として、図2のような「考えや思いをうまく伝えること」や「相手の気持ちを推し量ること」を不得手としていることがある。もちろん、対人関係の苦手さの背景はこれだけではないが、周りの人とかかわる上では、相手の考えや思いを酌みながら、自分の考えや思いを向き合う相手に合わせて表現しなくてはならない。このやりとりが、一方的になりすぎず、ほどよい関係を保つことが求められる。この状況は、言葉では説明しがたいものであり、また、人によって、場面によって変化していくものでもある。そのため、人や場面、話の流れ等を瞬時に察し、それに応じた対応が苦手な児童生徒にとっては、心地よい関係を築くことができずにいると思われる。
 そこで、まずは、自分の思いを伝えることに重点を置いた支援を考える。その際、言葉を用いるよりも写真やイラスト等の視覚的情報を主体とした表現方法を用いることで、曖昧さや説明の複雑さを解消することができると考える。そして、簡単な文字情報を加えていくことで、情報の補足を行うことができるようにになれば、表現の幅も広がると考える。さらに、相手と文字を通したやりとりを増やしていくことで、視覚的にその情報を正確に捉えることができるようになり、相手の思いや考えに対して、的確な応答ができるようになると考える。このようなやりとりを経験する中で、表現することや相手に伝えることの楽しさ、思いや考えを分かち合うことの喜び等を感じることができるようになり、人とのかかわりに自信がもてるようになると考える。
 
       
   3. 不登校児童生徒の学習の苦手さについて  
      図2にあるように、来所相談や「しいの木」に通う不登校児童生徒に見られる「学習不振」の背景として、「情報の取り入れ方の得手不得手」や「書くことによる情報発信が苦手」がある。「情報の取り入れ方」としては、大きく「聞くこと」、「見ること」がある。授業中の先生の指示一つとっても、口頭でのみ伝えられた内容については、「聞くこと」に苦手さがある児童生徒にとっては、中途半端な理解にとどまったり、中には、ほとんどを理解せずにいたりして、とりあえずやってみたものの失敗を繰り返してしまったという経験があると思われる。また、「書くこと」の苦手な児童生徒にとっては、授業中の板書を周りの児童生徒と一緒の速さで書き写すことができなかったり、宿題の漢字の書き取りに多くの時間を割いてしまったりしていると考えられる。また、時には、自分の書いた字が読みにくい、読めないという言葉を浴びせられたこともある。そのため、自分の思いや考えを書いて表現することを嫌う傾向にある児童生徒も少なくない。
 そこで、まずは、どのような苦手さがあるのかを把握する必要がある。そして、その苦手さとは違う別の方法が利用できないかを吟味し、率先して利用することで活動への意欲も変わってくると考える。例えば、「書くこと」は苦手であるが、「話すこと」はできる児童生徒に対しては、考えながら書くという2つの活動を同時進行するよりも、ICレコーダーに自分の思っていることつぶやき、録音しながら、それを聞くことで文書をまとめることができる。キーボードを使って文字の入力ができれば、パソコンのワープロ機能を使って文章を作り上げることで、考えながら書くという負担を軽減することができるようになると思われる。このように、児童生徒の苦手さをそのまま活動に取り入れるのではなく、苦手な部分は別のもの代用できる方法を活用することで、学習や活動に負担なく参加できるようになり、学習や生活にも積極的に取り組む意欲を高めることにつながると考える。
 
       
     
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