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パナソニック教育財団 第37回実践研究助成 

  Ⅳ ICTを活用した支援(学習編)  
   1.  ICTを活用した学習支援の考え方  
     学習面への支援ということでは、【不登校の理解 Ⅲ 苦手さの捉え方】に基づき、児童生徒にかかわることが必要である。ここで言う支援は、かかわる者が児童生徒の身の回りの様々なもの、人などを活用することを促すことで、これまで自分の努力だけではできなかったことができるようになる状況を作ることである。そこに、ICTを児童生徒の特性に応じて活用することで児童生徒の苦手さを軽減でき、学習や活動への意欲を高め、生きて働く力を身に付けることができるようになると考え(図1)、取組を行った。  
     
図1 学習に苦手さに対する支援の考え方
 
     今回の取組では、ICTを児童生徒に活用するにあたり、東京大学先端科学技術研究センターの高橋氏が提案する、カフェテリア式ICT機器介入の考え方(図2)をもとにした。このカフェテリア式ICT機器介入とは、提供するICT機器がさまざまな機能を持っていれば、使う側は自分に合った、使いやすい機能を見つけ、自分で調整しながら使用していくことができるというものである。つまり、かかわる者が、あれだこれだと機器を決め、活用を促すより、幅広い場面での活用が期待できる機器がある環境を整えることが必要である。そこで、「しいの木」においても、タブレットPCを自由に使えるようにし、児童生徒が必要に応じて活動の中に取り入れることができるようにした。タブレットPCを活用した事例を以下に紹介する。  
     
図2 カフェテリア式ICT機器介入の考え方
 
       
   2.  ICTを活用した学習支援の実際  
    【事例3:中学校3年・生徒C】  
      小学校の頃より登校渋りがあり、中学校に入学すると、学年を経る毎に欠席日数が増えていった。3年生になると、学校に登校することがなくなり、家庭で多くの時間を過ごすようになった。相談面接を継続的に行いながら、「しいの木」に通級するようになっていった。進学、学習への意欲は高いが、登校していないため、年齢相応の学力を身に付けることができずにいた。授業に参加する時には、先生の話を集中して聞くことがうまくできないことがあった。  
    支援の方向性と経過  
     タブレットPCに教科のソフト、漢字や簡単な計算のアプリを用意し、生徒が集中できるタイミングで、活用できるように準備を行った。タブレットPCの利点として、指で簡単に入力できるため、キーボードのキーを一つ一つ探して入力するような手間や周囲の人の手を借りて入力するといった心理的な負荷が掛からず、携帯性のよさから好きな場所で行うことができる。そこで、生徒Cが周りを気にせず取り組むことができるように心掛けた。今回タブレットPCに取り入れたソフトやアプリは、視覚的な情報と聴覚的な情報を含んでおり、「聞くこと」に苦手さのある生徒Cにとっては、得意な「見ること」を活用しながら活動を進めることができるようにした。また、アプリはゲーム性が高いため、生徒Cの興味・関心を高めることには長い時間を要さなかった。生徒Cが活用したアプリ(一部)を以下に紹介する。  
         
    漢字アプリ《漢字ゆびドリル》

 このアプリは、漢字の「書き取り」「読みがな」「練習」の3つのコースがあり、どれも指で書いて答えることができる。「練習」では、書きたい漢字が薄く表されるので、そこをなぞることで書き取りの練習ができる。漢字を覚えることが苦手な生徒Cは、書き写したり、思い出したりしなくてよかったため、漢字の練習に取り組みやすかったと話した。さらに「読みがな」では、ほとんどの読みができていた。生徒Cは、漢字が苦手と言っていたが、書くことが苦手であり、「読むこと」には、苦手さがなく、多くの問題を解くことができ、自信をもつことができた。

 
図3 漢字ゆびドリル
 
    漢字アプリ《漢検プチドリル 5000》
 このアプリは、読み書き以外にも実際の漢字検定と同じように「同音・同訓異字」「対義語・類義語」「四字熟語」等、難しい内容も含まれている。そこでまず、生徒Cの得意な「読み」問題に取り組んだ。始めは、間違えることも多くあったが、間違えてもすぐに正答が表示されるため、何度も正答の漢字を確認しながら挑戦し、50問全てに取り組むことができた。このように、生徒Cの苦手な部分については、本人の取り組みやすいやり方を使って提示し、得意な部分を生かした取組を促すことで、生徒Cの学習への意欲を喚起することにつながったと考える。

図4 漢検プチドリルをする生徒 
 
     PC版学習ソフト《デジタルスタディ》
 タブレットPCにインストールされた中学校1年生から中学校3年生の「デジタルスタディ」にも取り組んだ。「デジタルスタディ」は、国語、数学、英語、社会、理科の教科があり、学習したい教科や単元を自分で選ぶことができるソフトである。生徒Cは、好きな教科である社会を選び、中学校年生の「日本の農業」を行った。このソフトは、問題を解くヒントがイラストで提示されたり、答えが付箋の画像で隠されていたり、また、中には選択式になったりしているため、生徒Cは、「クイズを解くようだった」とつぶやいていた。また、難しい内容については、「しいの木」スタッフと共に、学習を進めることができた。

図5 デジタルスタディ
 
 
         
    生徒Cの変容
 生徒Cは、タブレットPCを利用した学習に大変興味をもち、抵抗なく取り組み始めた。中でも漢字の学習には長い時間集中して取り組んだ。「書き」問題では、自分が書いた字がタブレットPCで認識できないと認識するように丁寧に書くようになった。さらには、「漢字検定を受験したい」という意欲を見せ、タブレットPCのインターネット機能を利用して、日本漢字検定協会のホームページから来年度の試験日程を調べていた。タブレットPCは、それ一つで学習をしたり、学習に関連することや興味のあることを簡単に調べることができる。また、短時間で起動し、場所も取らないため、やる気を起こした時に手軽に取り組むことができ、生徒Cへの学習支援としてのICT機器の利用が有効であったと考える。
 
       
    【事例4:中学生1年・生徒D】  
      小学校の頃から不登校。中学校入学後もその状態が続いていた。「しいの木」へは、小学校の頃から通級をしており、安定した生活を送ることができていた。しかし、学習に対する意欲は高まらず、中でも「書くこと」については、自分自身も苦手さを感じていた。  
    支援の方向性と経過  
      家庭では、携帯型ゲームやインターネットを使って過ごすことが多くあった。「しいの木」の通級生と仲良くなり、パソコンのチャット機能を使って、やりとりをするようになった。パソコンのキーボードを使うことで文字による表現については、あまり抵抗を感じていないようであった。そこで、「しいの木」のタブレットPCを使い、活動の中で活用することを促した。  
       
     ワープロアプリ《メモ》
このアプリは、タブレットPCのスクリーンキーボードを使って文字の記録を行うことができる。右の画像は、どんぐり村で就業体験を終えた生徒Dが、どんぐり村の職員さんに宛てたお礼の手紙の下書きである。生徒Dは、字を書くことをとても嫌がっていたため、お礼の手紙を書けるだろうかとスタッフの間では危惧していた。しかし、図6のようにとてもすばらしい手紙を書くことができた。このアプリを使ったことで、「字を書く」という負担感が軽減され、文字を入力しながら、文章の構成を考えることに重きを置き、手紙の内容をまとめることができたためと考える。最後は、このメモを見ながら、文章を書き、どんぐり村の職員に手渡すことができていた。
 
図6 生徒Dが作成した手紙の下書き

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   3.  「しいの木」における学習支援の方向性  
   

 不登校であった児童生徒への学習支援を行うには、まずは、心の安定が必要と考える。信頼できる関係者の中で、心のエネルギーを蓄え、その後、学習へと気持ちが向いていく。そこでの学習支援にも段階があることが分かった。「しいの木」におけるICTを活用した学習支援プラン例を図7のように考える。
 始めの段階では、児童生徒の苦手な部分を使った学習よりも、得意な部分を生かした学びの場の提供が必要である。そして、次の段階では、今できる内容に取り組んだり、そこから少しだけ幅を広げたりできるような学習内容がよいと思われる。また、ゲーム性のあるもの取り入れることで、できるまで取り組んでみたり、時には、周りの人と協力し合いながら課題を達成したりしていくようなものもよいと考える。この段階まで至ると、学習内容に対するエネルギーも十分備わってきており、少しずつ学校での学習へと移行することになる。
 ただ、学校の学習については、一人で取り組むことは難しい。そこで、PC学習ソフトが活用できると思われる。これには、音声、動画、画像とさまざまな方法で解説があり、一人一人の苦手さを補った学習が期待できる。また、それまでの未学習な部分や得意な教科などを自分のペースで取り組むことも可能である。不登校や相談室登校の児童生徒にとっては、このような学ぶ機会を得ることで、少しずつ学習の定着を図ることができると思われる。そして、
いくばくかの自信をつけ、学校のワークシートやドリルに取り組んでみたり、中間期末テストに挑戦してみたりすることで、中学校卒業後の進路についての意志が明確になり、学習への意欲もさらに高まっていくと考える(図7)。

 
     

図7 「しいの木」における学習プラン例
 
     
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