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パナソニック教育財団 第37回実践研究助成 

  Ⅲ ICTを活用した支援(かかわり編)  
   1.  ICTを活用した支援のステップ  
     今回の取組を進めるにあたって、図1に基づいて支援を行った。まず、児童生徒とつながること。これは、在宅で不登校状態にある児童生徒とのかかわりを深めることであり、1対1での信頼関係を築くことに重点を置くことにした。次のステップは、不登校であった児童生徒が自分のできる方法で自己表現ができる場を設けること。これは、日々の活動で感じたことを周りの人に伝える意欲を高め、相談担当者以外の人とつながることをねらった。さらなるステップとして、家族や学校関係者等と自分たちの発信したものや時間、経験をわかちあうこと。これは、自分たちの発信したものを介したやりとりを行ったり、直接的、または間接的なかかわりを通して、同じ時間、同じ体験を共有することに取り組むことにした。これらのかかわりを通して、人とかかわることの楽しさを実感し、少しでも学校復帰への意欲と自信を高めることができればと考え、今回の取組を行った。  
     
図1 ICTを活用した支援のステップ
 
       
   2.  「つながる」ことに重点を置いた取組  
     タブレットPCの以下のような3つの利点を生かして取組を行った。
① 魅力的なアプリが豊富にあること
  タブレットPCにインストールできるアプリとしては、ゲームから学習ソフト、映像編集ソフトまで数限りない種類
  のものがあり、児童生徒のいかなる興味関心にも対応することが可能である。
② 不登校児童生徒が苦手とする言葉を介することなく、かかわりがもてること
  多彩なアプリは、そのほとんどが視覚的な能力を使うことでその用途を満たしている。言葉で説明をしたり、
  答えたりすることがなく、視覚的な情報を使って内容を理解し、動作によって応答のみで対応することが可能
  である。
③ 一人でできるものもあれば、二人で、時には、大勢でできるアプリがあり、活動を共有できること
  アプリの中には、難しい課題が含まれているものもあるが、互いに協力し合いながら取り組むことでその解決を
  図ることができる。そのようなかかわりを行うことで、互いの仲間意識が芽生え、関係を深めることが可能になる。
 このようなアプリを有するタブレットPCを活用した2つの事例を紹介する。
 
     
図2 タブレットPCに含まれるアプリの利点
 
    【事例1:小学校高学年・児童A】
 小学校中学年の頃から学校への登校渋りが始まる。学校に登校すると、その日は級友と共に過ごすことができていたが、帰宅後はとても疲れた様子を見せていた。高学年になり、欠席する日数が増え、ほとんどを家で過ごすことが多くなった。 学校を通じての教育相談の依頼があり、通所するようになった。
 
       
     脳トレアプリ《脳トレ瞬間記憶》

緊張感が高く、言葉でのやりとりに不安を感じているようだったため、タブレットPCの脳トレアプリを提示した。このアプリは、画面上に写し出される数個の丸数字を記憶し、○だけ映し出されたものを数の小さい順に指でタッチするものである。数字が出される時間は一瞬だが、間違いも少なく取り組んでいた。その様子を見た面接担当者(以下担当者)から「上手だね」と声を掛けられ、うれしそうな表情を見せていた。その後は、難しい課題にも取り組んだり、担当者にもこのアプリをするように促すしぐさを見せていた。

 
図3 脳トレ瞬間記憶
 
     地図アプリ 《日本地図》
 「社会科が好き」ということが分かり、地図アプリを見せた。ばらばらになっている都道府県のピースを正しい場所に合わせていくものである。ピースに指を合わせると県名が読み上げられ、表示される。分かりそうなものから当てはめ、正解する度に担当者から「すごいね」と声を掛けられ、笑顔を見せていた。場所が分からない時には、「これどこかな?」と担当者に助けを求めるようなつぶやきが聞こえるようになった。担当者がヒントを出しながら行い、全てのピースが埋まると、「やった!」と声をあげて、喜んでいた。
 
図4 日本地図
 
    漢字アプリ《熟語タッチ》 
 タブレットPCの中から自分でこのアプリを選択した。これは、81個の漢字から熟語を探し、全部の組合せを作り出すものである。漢字は苦手と担当者に伝えていたが、自分から熟語を探し出していた。できた熟語の読みも正確にできおり、読みに苦手さを感じられなかった。このアプリをする時には、児童Aから「一緒にやろう」と担当者は声を掛けられ、始めから最後まで協力して取り組んだ。なかなか全てを組み合わせることはできなかったが、何度目かに達成すると、ハイタッチをして完成できたことを共有していた。
 
図5 熟語タッチ
 
    児童Aの変容
 1時間という短い時間でのかかわりであったが、児童Aが楽しめるアプリを活用したことで、担当者との関係性を築くことができた。その後の面接においても、来所することを楽しみにし、タブレットPCから道具を操作した遊び、さらには運動へとかかわりの幅を広げることにつながった。これらのかかわりの中では、担当者の問い掛けに答えたり、自分から話すことも増えていき、「しいの木」への通級が始まった。
 
       
    【事例2:中学校1年・生徒B】
 小学校の頃は、病気以外で欠席することはほとんどなかったが、中学校に入学してしばらくしたころから、登校を渋るようになった。夏休みを終えた2学期からはほとんど登校しなくなった。来所相談と並行して、家庭訪問での支援を行った。また、「しいの木」への見学を1度行っていた。
 
       
     カメラアプリ《パノラマ》
 面接で関係を築き、家庭訪問で支援を始めた。いつもは寝ている時間であったが、起きて外まで迎えに来てくれた。しばらく室内でかかわった後に、生徒Bが「家の周りを撮っていいですか」と担当者に伝えたので、このアプリを紹介した。操作を覚え、自分を起点に一回りし、パノラマ画像を撮影した。撮った画像を「しいの木」へ送ってみようと提案するとうなずき、担当者がメールに添付して送った。その返信をすぐに受け、「いいところだね」という文言に照れたような笑顔を見せていた。
 
 
図6 パノラマ画像を撮る様子
 
     通信アプリ《FaceTime》
 このアプリは、ビデオ通話ができるため、離れた場所でも映像と音声でかかわることができる。訪問支援では、本人の承諾を得て、「しいの木」と通信を行った。始めは、緊張した様子も見られたが、慣れてくると手を振ってみたり、「しいの木」のスタッフからの問い掛けにも笑顔で答えたりする姿が見られるようになった。また、スタッフだけではなく、「しいの木」の通級生ともあいさつをしたり、手を振ったりすることが増え、自然なかかわりができるようになっていった。
 
図7 通信アプリを使っている様子
 
    生徒Bの変容
 数回の訪問支援の中で、担当者との関係性も深まっていった。また、「しいの木」のスタッフや通級生と通信アプリを使うことで、間接的であったが面識を持ち、簡単なあいさつや会話ができたことが、「しいの木」で過ごしてみようという意欲を高めることにつながったようだ。訪問支援後には、「しいの木」に通級するようになり、楽しく通級生やスタッフとかかわれるようになった。
 
       
    このようなアプリを活用して不登校児童生徒との「つながる」ことに取り組んだが、これだけあれば不登校が解決するというものではない。あくまでも、児童生徒との「つながる」ためのきっかけの道具にすぎないと考える。ただ、この小さなきっかけで、児童生徒とつながることができれば、次は、少しずつ安心できる関係を築き上げることができる。その時には、タブレットPCも活用するが、その他のツールを使いながら、一緒にいることが楽しい、自分につきあってくれるという思いをたくさん感じられるような働き掛けが必要である。そして、さらには、児童生徒の自宅や面接室という二人だけの関係から、場所を変え、多くの人が利用する公共の場へつないでいくことになる。その際、突然場所や関係性が変化するということは児童生徒にとっては、とてもエネルギーを必要とする。しかし、今回のような、映像や音声を通じて、新しい場所でもそこがどのような場所か分かる、知っている人がいるという経験があれば、さほど大きなエネルギーも必要としなくなることが分かった(図8)。  
     
図8 タブレットPCを活用したかかわりの広がり
 
       
   3.  「つたえる」ことに重点を置いた取組  
      「しいの木」に通級することができるようになると、「しいの木」では、さまざまな活動に参加するようになる。まずは、個人活動から始まり、家以外の場所で、自分の好きな活動に取り組む。その中で、自宅から持ってきたゲームばかりやっていた児童生徒も、漫画を読んだり、スタッフと談笑したりできるようになっていく。次に、集団活動に参加し、他の通級生と一緒の活動に取り組む。みんなでカードゲームをしたり、人生ゲームやモノポリーなどの盤ゲームをしたり、時には、卓球やキャッチボールをしたりと、周りの人と同じ活動で時間を共有するようになる。そして、時には、「しいの木」スタッフが計画したさまざまな実習活動にも参加をすることができるようになる。「しいの木」に通級できるようになった児童生徒は、このような多様な活動を通してエネルギーを高めていくが、学校関係者や家庭の人にはなかなか伝わらないことが多くあった。そこで、児童生徒が主体となり更新作業をする、ブログ「しいの木通信」を開設し、「しいの木」における日々の活動の表現の場とした。以下に、ブログ「しいの木通信」を活用した取組の一部を紹介する。  
     
図9 「しいの木」での各種活動
 
       
       


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     このブログは、10月に行った宿泊体験から取り組んでいるが、児童生徒がとても楽しみにしていた活動であり、多くの書き込みを行った。書き込みの方法は、タブレットPCで撮影した画像を中心に、思い思いのタイトルや文書を交えて行っていた。この取組においても、ICTならではのよさを生かしたものであった。まずは、多くのことを語らず、写真1枚でその場の様子を伝えることができたことである。「どうだった?」の問い掛けには、とても緊張し、言葉でうまく伝えることが苦手な児童生徒であるが、お気に入りの場面を、自由な構図で相手に伝えることができたことは、児童生徒にとっては自分の思いを伝えやすいものであったと考える。また、短いながらもその場の様子を言葉でも伝えようする姿もうかがえた。投稿する写真に合うコメントをキーボードで入力したり、時には、顔文字を付けてみたりして、相手に気持ちや様子を伝えようとしている姿を感じることができた。  
     
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     このブログにコメント機能を付けたことで、ブログを見た人からの反応を楽しみにするようにもなった。上記の宿泊体験のコメントでは、家族から温かなメッセージが寄せられた。「しいの木」に通級するまでは、家でしか過ごすことができなかった我が子が、家庭を離れ、友達と寝食を共にする姿に、頼もしさを感じている様子が伝わってきた。また、児童生徒が、このメッセージを見ることで、家族に温かく見守られていることに気付くこともできたのではないかと考える。普段は、面と向かっては言えないことでも、ここでは、お互いの気持ちを分かち合うことができたのではないかと思われる。また、調理活動のコメントのように、「しいの木」スタッフや面接担当者からの称賛や励ましを受けることで、自分たちの活動に自信をもつことができ、普段のかかわりにおいても話題を共有することができるようになっていった。  
       
     これは、調理活動でホットケーキを作った時のことである。ブログにアップされていたものが、自分のトレードマークであったのに驚き、家からコメントを書き込んでいた。実は、このマークの持ち主は、インフルエンザでこの調理活動に参加できなかったのだが、周りの友達が彼のために作ってくれていた。それを知った彼は、「早く元気になって、しいの木に行きたい!」という気持ちを書き込んでいた。これは、「しいの木」という場所に所属感を感じ、友達のやさしさにふれることができたからだと考える。もし、このブログがなかったら、友達の温かさを知らずにいたかもしれない。このブログを活用することで、お互いの気持ちを理解し合い、人とかかわることの意味を感じることを促すことができたと考える。  
       
   4.  「わかちあう」ことに重点を置いた取組  
     「しいの木」に通級する児童生徒が学校復帰するための一歩として、在籍校において安心できる人とつながることにある。それは、担任であったり、養護教諭であったり、部活動の顧問であったりする。しかし、これまでは「しいの木」と学校を結ぶものとしては、学期に1回程度の担任の会(児童生徒と担任がいろいろな活動を通して触れ合う会:1時間程度)しかなかった。そのため、担任等が家庭訪問の際に会っても、よそよそしく接したり、連絡事項のみの伝達で終わったりすることが多く見られた。そのため、なかなか親しく安心できる関係性を築くことができずに、学校復帰への一歩を踏み出すことができずにいた。
 そこで、「しいの木」での活動の様子をブログで伝えたり、「しいの木」と学校とをビデオ通話で結ぶことで、ブログの様子を話題として、かかわりを持つことができるようになると考える。また、学校の行事には直接参加はできないが、間接的に映像を介して参加することも可能になると考える。間接的なかかわりではあるが、これまで以上に在籍校との関係が密になれば、児童生徒の学校復帰への足ががりになるのではないかと考える。
 
       
       
     また、波戸岬での宿泊体験では、ビデオ通話を活用し、教育センターにいる所員とリアルタイムな通信を行うことができた。子どもたちの臨場感あふれる様子に、同じような体験を共有することができたような気持ちになった。このことを生かし、今後は、ビデオ通話を使って、学校行事等の様子を伝え、映像を介した間接的な参加が期待でき、学校との距離を少しずつ縮めていけるのではと考えている。  
       
     
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