「意思決定を取り入れた討論型の学習」に取り組んでみませんか! |
2 研究の実際 |
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(1) 「意思決定を取り入れた討論型の学習」についての考え方 | |||||||||||||
ア なぜ、意思決定を取り入れるのか |
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実社会の仕組みや人々の営みは、変化していくもので、人々の価値観も多様です。つまり、社会の見方や考え方は、答えが1つとは限りません。だからこそ、児童生徒に対して多面的・多角的に考察し、公正に判断する能力と態度を養うことを意識した指導が求められており、社会的な見方や考え方を成長させることが重視されていると考えます。したがって、「教科書に書かれた事柄を覚えさせる学習」、「社会的事象の意味や働きを説明させる学習」にとどまらず、「社会の一員として社会にどう関わっていこうかということを考えさせる学習」も取り入れる必要があると考えます。 例えば、昨今の選挙では、投票率の低さが問題視されています。この一因として、「社会の一員として社会にどう関わっていこうかということを考える」経験のなさが考えられます。他にも、身近な地域において、行事への参加者が減ってきていることやごみの不法投棄等の法やきまりを遵守しない人が増えていることなどに見られます。これらのことから、社会科では、「誰がしている」よりも「自分も含めたみんなでつくっていく」という意欲や態度、そして、そのための能力を養うべきだと考えます。 そこで、「児童生徒が身に付けた社会的な見方や考え方を基に、社会の在り方や社会への関わり方などについて自分の考えをもつこと」を意思決定という言葉で定義しました。本研究では、児童生徒に意思決定を迫り、児童生徒が自分の考えを自分の言葉で表現できる姿を求めています。 |
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意思決定の対象は、社会科の指導内容に関わる「社会的な問題」と考えます。
「社会的な問題」とは、実社会の仕組みや人々の営みに内在している価値が対立したり、多様な価値が存在したりして判断が分かれるような問題と考えています。 具体的には、表1に示す3つのパターンがあると考えます。 表1 社会的な問題のパターン(実践事例からの分類)
このような、「社会的な問題」は、どちらが(どれが)正解という問題ではありません。なぜなら、実社会においても論争になったり、判断が分かれたりしているからです。「社会的な問題」は、社会的な価値についての判断が迫られるため、どちらも(どれも)大切です。したがって、根拠を明確にしてどちらか(どれか)を選ばせる意思決定が大事だと考えます。これを踏まえて、「社会にとってどちらがよりよいのか」や「どのような社会が望ましいのか」などを意識させる必要があります。そのために、「優先すべきか」や「より○○なのはどちらか(どれか)」などが論題に付加されます。 社会的な問題について意思決定を迫ることにより、児童生徒は、新たな疑問が生じたり(もっと知りたい欲求)、自分が大切にしている価値についての葛藤(ジレンマ)が起こったりします。その際、判断材料として、身に付けた知識や概念、技能を活用しなくてはならなくなり、情報が足りなければもっと知らなければならなくなってきます。これにより、思考力・判断力を高めるだけではなく、身に付けた知識や概念、技能において追調査や確認が必要となり指導内容の理解も深まっていくという効果も期待されます。つまり、社会的事象の知識・理解や社会的事象への関心・意欲・態度の観点から見た力も同時に育成できる学習であると考えます。 |
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ウ 「意思決定を取り入れた討論型の学習」と言語活動の充実をどう考えればよいのか |
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平成20年1月の中央教育審議会答申には、思考力・判断力・表現力等の育成を図るために次のような例を挙げ、言語というツールを使った学習活動を充実させることを求めています。
「意思決定を取り入れた討論型の学習」では、@ABCEの言語活動を取り入れた学習が可能になります。したがって、「意思決定を取り入れた討論型の学習」は、社会科における思考力・判断力・表現力の育成に効果的な学習であると考えます。 |
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エ なぜ、討論型の学習に取り組むのか |
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児童生徒の考え(思考)が一人よがりにならない(独断に陥らない)ようにするためです。対立している価値や判断の両面を理解し、その両面を考慮した判断へと誘うための手立てとして考えています。つまり、より多くの人を納得させる考えへと深めさせるためです。
「社会的な問題」を対象にした意思決定を迫る上で、社会科における思考力を育成するために留意したいことは以下の3点です。
これらは、社会科における思考力を測る視点であると考えます。それらを満たすためには、児童生徒に自分なりの考えをもたせるだけでは不十分だと考えます。たとえ他者と同じ社会的な価値を選んだ(支持した)としても、根拠となるデータ(資料や数値など)や理由付けが違うことが考えられます。 複数ある考えについて、自分の考えやその根拠を他者と照らし合わせ、説得したり、納得したり、時には批判したりしながら「社会にとってどちらがよりよいのか」、「どのような社会が望ましいか」を議論させることが必要と考えます。児童生徒が、他者と互いの考えを支えている根拠について議論することで、学習対象としている社会的事象が様々な面から見られるようになり、様々な角度から考えられるようになると考えます。 峯(2012)は、「意思決定力を育成する学習は、それ自体が民主主義の方法を示している。討議はその中心的な方法であり、市民が備えるべき技能である」2)と述べています。 これらの効果が期待できるため、「意思決定を取り入れた討論型の学習」を提案します。
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オ 討論型の学習をどう捉えればよいのか |
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討論型の学習は、ディベートをすると考えられている先生方も多いようですが、ディベートだけではありません。討論型の学習で留意したいのは、以下の2点です。
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これらのことから、「意思決定を取り入れた討論型の学習」は、児童生徒が、判断が分かれる社会的な問題について、自分の考えをもち、その考えや根拠について、より多くの人を納得させるために、吟味、再考、再構成する活動になります。このため、社会科における思考力・判断力を育成するために効果的であると考えます。 また、自分の言葉で表現し合う活動になります。表現力を育成する指導も並行して行えることからも意義深いと考えます。自分の考えを相手に分かりやすく伝えたり、自分の考えとその根拠(データや理由付け)を結び付けて多くの人が納得するように書いたりする機会を、思考が深まる段階に応じて取り入れることができるからです。 |
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