小・中学校を通した理科の授業づくりを提案します!

                                         
3 研究の整理 

本研究は、科学的な思考力・表現力の育成を目指した理科学習指導の在り方をテーマに、平成22年度から23年度の2年間で進めてきました。

研究1年次は科学的な思考力・表現力の育成のために、言語活動の充実を図ることができるような学習モデルとそれに対応したワークシート様式について、まず小学校の学習の進め方をベースにして実践を重ねながらその策定を行い、有効性について検証を行いました。

研究2年次は、見いだした学習モデル(言語活動の充実により科学的な思考力・表現力の育成を目指した学習の進め方)を基に、更に実践を重ね、特に中学校に重点を置いて、その有効性について検証を行ってきました。

また、ものづくりについては、単元の中に取り入れた学習指導や教材開発を行ない、ものづくり活動の啓発に取り組んできました。
   2年間の研究を次のように整理します。

(1) 研究の成果
     児童生徒の科学的な思考力・表現力の育成を図るためには、次に述べていくようなことが重要であることが明らかになってきました。
  ○ 問題解決の流れを教師と児童生徒が共通理解すること
      理科の授業を行う際、教師は学習の流れを把握しておく必要があります。その学習の流れが、問題解決の過程として適切なものかどうかということを念頭に、授業を進めていくことが大切です。さらに、その問題解決の過程は児童生徒も把握しておく必要があります。そうすることで、児童生徒は、現在行っている活動が、問題解決のどこに位置付いており、その活動にどのような意味があるのか、意味付けを行いながら探究活動を進めることができると考えます。その、児童生徒が意味付けしたことを表現させることが言語活動の充実であり、科学的な思考と表現とをつなげることになると考えます。
  本研究では、児童生徒に、問題解決の過程を示す学習モデルの提示と、その流れに沿ったワークシートを用いることで、教師と児童生徒が問題解決の流れを意識しながら学習を進めることができました。
   
  ○ 言語活動を充実させる場面を明らかにすること
     科学的な思考力・表現力を育成するために、理科における言語活動を充実させる場面として、大きく次の3つが考えられます。次に挙げる@からBの場面について、本研究の成果を整理します。
 
@ 事象提示から学習問題を設定する場面
   児童生徒は、自然の事物・現象に対して、自分なりの見方や考え方をもっています。本研究では、教師が行う事象提示について、児童生徒がどのように読み取っているのかを書き出させて表現させ、交流させるようにしました。これにより、児童生徒自身が、自然の事物・現象についてどのように考えているのかといった自分の認識を明らかにすることができ、さらに交流によってお互いの認知の違いなどにも気付き、より主体性をもった学習問題を設定することができるようになりました。
A 観察・実験を行う場面
   観察や実験から得られることをデータ化するために、本研究では表やグラフを示したワークシートを用いて、結果を表やグラフに整理させるようにしました。これにより、児童生徒は、学習問題に対して、目的意識をもって観察・実験を行うことができるようになってきました。また、その後の考察における根拠として示すデータとして扱いやすくなりました。
B 結果から結論を導き出す考察の場面
   観察や実験から得られた客観的な結果(データ)として、その結果を基に結論を導き出す思考が「考察」です。本研究では学習問題に対する結論を含めて「考察(結果から言えること)」としました。考察を表現させる際は、導入の事象提示の再説明を意識した記述をさせるようにしました。これにより、結果と考察を分けて考えることや導き出した結論を自然事象に当てはめて説明することなど、表現力の育成につなげることができました。
 
○ 問題解決の過程を見通した学習計画及び学習評価規準の設定を行うこと
   本研究では、単元にものづくりを取り入れた実践や、単元に取り入れたいものづくりの教材開発を行いました。これにより、児童生徒のみならず、教師も学習内容と生活とのつながりを感じながら学習を行えるなど、広い視野に立った意識をもつことができるようになってきました。
  また、教師は、新学習指導要領の趣旨を反映した学習評価の在り方について、問題解決の過程と評価規準の位置付けを意識し、ワークシートを対応させながら学習を進めることで、指導と評価のつながりをもって学習指導を行うことができるようになってきました。
   
  (2) 研究の課題と今後の展望
 

本研究では、小学校と中学校が共通する学習過程モデルに沿って、科学的な思考力・表現力の育成を図る理科学習指導の在り方を探ってきました。これまで、小学校と中学校が、別々にその方途について研究されることが多かった中、それぞれの特性を考慮しながら共通して取り入れられる手立てを探り、その有効性が見いだされたことは大変有意義であったと考えています。今後は、より多くの小中学校で、このような考え方の共有、実践の共有が必要だと考えます。

理科における言語活動の充実については、更に研究を進めていく必要があります。特に、予想や仮説と関係付けながら考察を言語化し表現する活動では、児童生徒の思考をつなぐ教師の役割が重要になると考えられます。児童生徒の思考、発言をどのようにつないでいけば、より充実した考察がさせられるようになるかなど、更に具体的な手立てを考えていく必要があると考えています。

   
 
4 参考文献
 
・森本 信也 編著 『考え・表現する子どもを育む理科授業』 2007年 東洋館出版社
・小林 幸雄/大野木 一雄 編著 『「言語活動の充実」事例』 2010年 明治図書
・田代 直幸/山口 晃弘 編著 『発想が広がり思考が深まるこれからの理科学習−言語活動を重視した授業づくり−』
中学校1分野・2分野 2010年 東洋館出版社
・日本初等理科教育研究会 編集 『初等理科教育』 2010年 4月-12月号 社団法人農山漁村文化協会

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