これからの算数科学習指導について提案します!

思考力・判断力・表現力をはぐくむために

〜児童が基礎的・基本的な知識・技能を活用する授業のポイント〜

本研究では、 知識・技能の習得を図り、数学的な思考力・判断力・表現力をはぐくむことを目指しています。身に付けた知識・技能の定着を図り、思考力・判断力・表現力をはぐくんでいくためには、学習したことをその後の学習や身近な生活の様々な場面で活用できるようにすることが大切です。

平成22年度佐賀県小・中学校学習状況調査の教科ペーパーテストと児童生徒意識調査の小学5年算数の結果分析から次のようなことが分かりました。
児童生徒意識調査における算数の授業の理解度についての自己評価で、「よく分かる」「だいたい分かる」を合わせた割合は84.7%でした。このことから、8割以上の児童が「授業は分かる」と思っています。(図1)
設問  「算数の授業は、どの程度わかりますか」グラフ
図1  H22年度(小学5年算数)理解度についての自己評価
   
しかしながら、教科ペーパーテストの正答率の度数分布状況を見てみると、正答率60%未満の児童が約4割います。(図2)
このことは、児童の意識として「授業は分かる」と思っているけれども、その学習内容は十分に定着が図られていないということを表しています。

2   H22年度(小学5年算数)正答率ごとの分布状況   
   
さらに、教科ペーパーテストの評価の観点別正答率を見てみると、「数学的な考え方」(グラフ中では「考え方」と表記)の観点は「おおむね達成」の基準を下回っており、「数量や図形についての表現・処理」(グラフ中では「表現・処理」と表記)は「おおむね達成」の基準を10ポイント以上上回っているものの、「数量や図形についての知識・理解」(グラフ中では「知識・理解」と表記)の観点は「おおむね達成」の基準と同程度である状況です。(図3)
図3  H22年度(小学5年算数)評価の観点別正答率   
この結果から、知識・技能の定着が十分に図られているとは言い難く、また、数学的な思考力・判断力・表現力の育成についても課題があるといえます。このような現状を解決するためには、学習したことをその後の学習や身近な生活の様々な場面で活用させるように指導を工夫する必要があります。活用させることを通して、身に付けた知識・技能の定着を図り、数学的な思考力・判断力・表現力をはぐくむことができるように、提示する問題を吟味したり、位置付ける算数的活動を工夫したりすることが重要となります。
そこで、活用する学習活動をどのようにとらえればよいか、提示する問題の例、算数的活動を位置付ける際のポイントなどについて次に述べたいと思います。

活用するとは?

 本研究では、算数科の学習において「活用する」ということを「既習事項の活用」と「生活への活用」ととらえています。 実際の授業において、児童に活用させる場面を大きく次の2つに分けてみました。
(1) 基礎的・基本的な知識・技能を活用して、新たな知識・技能を生み出すような学習の場について
  算数科の特色の1つとして系統性が明確であるということがあります。そこで、児童が課題に沿って問題を解決していく中で、既習事項を活用する場面というのは多々あります。そのためには、学習の中で児童がどんな知識・技能を活用して問題を解決していったかを明確にしていくことがポイントです。
例えば、「 いろいろな形の面積を求める」学習では、次のような系統性があります。
○ 長方形の面積 → 平行四辺形の面積 → 三角形の面積 →  台形の面積 → ひし形 → 一般四角形
他にも、「三角形の内角の和を発見する」学習では、次のような系統性があります。
○ 三角形の内角の和 → 四角形の内角の和 → 五角形の内角の和 → 六・七角形の内角の和
このように既習事項を活用して課題が解決できることを明確にしながら、問題に取り組ませていくことが重要なポイントです。
(2) 基礎的・基本的な知識・技能を、家庭や学校などの生活に活用させる学習の場について
  児童に、算数で学んだことを生活に活用させるためには、児童に、解決を図らせた後に「算数は便利だな」「よくわかった」などといった気持ちをもたせることが大切です。次の@〜Bは、生活の中で取り上げられる事象の問題をまとめたものです。
@学校の中で

ア 児童の数を扱った問題
イ 廊下などの長さや面積を扱った問題
ウ 物の形を扱った問題
エ 図画工作の授業で製作するときの長さや重さなどを扱った問題
オ 遠足などの行事の中から数理的なものを扱った問題
カ 図書室の貸し出し数や保健室の来室者の人数をグラフにした問題
キ 体育の授業での記録を扱った問題
ク 社会の授業の中で扱った統計・資料など、他教科で算数を使う問題
A家庭の中で
  ア 物を分けたり集めたりする問題
イ お小遣いに関する問題
ウ 家の中の物から図形的な物を発見する問題
エ 広告などから商品の価格を考える問題
オ 自分や家族の身長や体重などを扱った問題
カ 調理の場面で時間や分量を扱った問題
B家庭の外で
  ア 買い物の場面を扱った問題
イ バスなどの料金を扱った問題
ウ 住んでいる町の統計資料などを扱った問題
エ 時刻表から出発時刻などを考えさせる問題
これらのことを問題として取り上げ解決していくことで、児童は既習事項を組み合わせながら活用を意識し、算数の有用性に 気付いていくと考えます。
では、どんな算数的活動をどのように仕組むか、どのようなことに留意しながら学習を進めていった方がよいか、 以下のように 考えました。

活用することを意識しながら、算数的活動の充実を図る

これからの算数的活動を考える時、児童が与えられたもので受け身的に活動するのではなく、目的意識をもって、主体的に取り組むような活動にしていくことが重要です。 児童が自力解決の場面で、既習事項を活用しながら、自分なりの解決方法を考え、表現する活動を積み重ねていくことで、思考力・判断力・表現力がはぐくまれていくと考えます。
本研究では、特に「既習事項を活用すること」や「自分の考えを表現したり説明したりすること」を意識しながら算数的活動を授業の中に取り入れていきます。 また、問題の提示をする際に身近な生活の場面を想起させたり、学習したことを生活の中で活用していけるような算数的活動についても工夫していきます。
主な算数的活動と1単位時間に位置付けられる算数的活動のモデルを以下のように表してみました。
作業的・体験的な活動
手や身体などを使ってものを作るなどの活動
教室の内外において各自が実際に行ったり確かめたりする活動
具体物を用いた活動
身の回りにある具体物を用いた活動
振り返る活動 既習事項を振り返る活動
調査する活動
物事を数・量・図形などに着目して観察し、実態や数量を調査する活動
与えられた情報を分類整理したり、必要な情報を適切に取捨選択したりする活動
探究的な活動
数量や図形の意味、性質や課題解決の方法などを見付けたり、つくりだしたりする活動
与えられた情報を分類整理したり、必要な情報を適切に取捨選択したりする活動
発展的・応用的に考える活動
学習したことをさらに発展させて考える活動 
解決した問題の視点を変え発展的に考える活動
表現する活動 自分の考えを言葉、数、式、図、表、グラフなどを使い数学的に表現したりする活動
説明する活動 自分の考えや考えの過程を説明する活動

算数的活動を取り入れた授業モデル(1単位時間)

学習過程
授業に位置付ける主な算数的活動と指導のポイント







  つかむ


問題(課題)を知ったり、学習のねらいを確認したりする段階





 〔この段階に位置付けたい算数的活動〕
  調査する活動 
     物事を数・量・図形などに着目して観察し、的確にとらえる活動

     与えられた情報を分類整理したり、必要な情報を適切に取捨選択したりする活動

この段階では、問題についての情報を十分に理解させたり、どのように学習を進めていけばよいのかを考えさせたりすることが大切です。
                             

・提示する問題を解決させるために、どのような既習事項が必要であるかを十分に把握しておきましょう。
・前提テストや事前テストをするなどして、児童の実態を把握し、新たな問題を解決するのに十分な力を児童に 備えさせておきましょう。
・提示している問題が今まで学習してきた問題とどこが違うのかを気付かせましょう。

                            



  見通す

答えの予想や方法の見通しを立てていく段階

〔この段階に位置付けたい算数的活動〕

振り返る活動 既習の事柄に関連付けて問題を解く活動

特に方法の見通しを立てていく場面では、児童自身に関連のある既習事項を想起させ、どのような知識や技能を活用すれば解決を図ることができそうかを、一人一人に考えさせることが大切です。
                             

・今までに学習したポイントを掲示したり、児童のノートや教科書を振り返らせたりして解決の糸口を見つけさせましょう。

 







自力解決

操作や絵・図または、式やことば等を使って考えたことを表現していく段階

〔この段階に位置付けたい算数的活動〕

作業的・体験的活動 
     教室の内外において各自が実際に行ったり確かめたりする活動

  具体物を用いた活動 
     身の回りにある具体物を用いた活動

探究的な活動
     数量や図形の意味、性質や課題解決の方法などを見付けたり、つくりだしたりする活動
     与えられた情報を分類整理したり、必要な情報を適切に取捨選択したりすること

  ●表現する活動 
     自分の考えを言葉、数、式、図、表、グラフなどを使い数学的に表現したりする活動

ノートやワークシートに図や式などいろいろな表現方法を使ってかかせていくことになります。
そして、かかせる際に学び合いの過程を想定し、相手意識をもたせることも必要です。また、児童に図や式、ことば等で表現させることは、既習事項のどのような知識・技能を活用したのかということを児童自身に意識付けさせることになります。
                             

・解決ができていない児童には、ヒントとして「この考えを使ってできないかな」等とアドバイスをして既習事項を活用することを意識付けさせましょう。
・考えたことを友達によく分かるように、図や式などを使って表現したり説明の準備をしたりするようにアドバイスをしましょう。
・児童が説明の準備をする際、「〜だから〜になります。」とか「〜を使ったら〜なりました。」などといった説明の仕方を例示して、児童が既習事項を活用する意識付けを図りましょう。
 







学び合い


自分や友達の考えをグループや学級全体で検討していく段階

〔この段階に位置付けたい算数的活動〕
   ●説明する活動 自分の考えや考えの過程を説明する活動 
 
発展的・応用的に考える活動 
   
学習したことをさらに発展させて考える活動 
    解決した問題の視点を変え発展的に考えること

この段階では、いくつかの児童の考えを比較したり、検討したりしていきます。また、それらの考えがどのようなことを活用して考え出されたのかを明確にしていくことが必要です。 さらに、考えの関連性を見いださ せたり、有効性を考えさせたりして、考えのよさを新たな問題に活用できることを児童に示唆していくことも大切です。そして、話し合いで出てきた考えを活用するような適用問題や応用問題を提示して活用することのよさを実感することができれば、次からの学習意欲も高めることができると思います。
                             

・児童が説明の中で、「〜だから〜になります。」とか「〜を使ったら〜なりました。」などの説明ができているか確認しましょう。
・学び合いの中で児童がどのような考えを出すのかを予想しておきましょう。
・学び合いの中で出された考え方の中から、次に使えそうな考え方などの大切なものには、教師が板書等で児童の注意を集めるように配慮しましょう。
・適用問題や応用問題を準備し、学び合いでの考えのよさを使って、児童が習得したことを明確にできるようにしましょう。

 

まとめる

1時間の学習を振り返り、自分がどのようなことを活用して解決を図ったかをまとめていく段階
  〔この段階に位置付けたい算数的活動〕
  ●説明する活動 自分の考えや考えの過程を説明する活動 
  ●発展的・応用的に考える活動
     学習したことをさらに発展させて考える活動
     解決した問題の視点を変え発展的に考えること

1時間の終末に学習を振り返り、まとめさせることにより、本時でどのようなことを活用して解決を図ったかを明らかにし、次時からの学習でもこれまでに学んだことを活用させていくことにつながります。
                             

・「自分がよく分かったこと」「課題解決につながったポイント」「友達の考えでよかったこと」などについて記述させ、自分が使った既習事項や友達の考えのよさ等を明確にさせましょう。そのことが学習したことを進んで次の学習や生活の場面に活用しようとする態度を育てていきます。

このような学習の流れを大切にして、繰り返し実践していくことで児童の思考力・判断力・表現力がはぐくまれていくものと考えます。


Copyright(C) 2011 SAGA Prefectural Education Center. All Rights Reserved.
最終更新日:2011-03-30