○ 学習指導案    中学校第1学年 「 社会科 」


1 単元名 「身近な地域を調べよう」 (平成19年10月実施,35名)
授業実践者:伊東 泰弘
2 単元とその指導について
 本単元は,市町村規模の地域的特色をとらえる視点や方法,地理的なまとめ方や発表の方法の基礎を身に付けることがねらいであり,その題材として「身近な地域」を扱う。身近な地域の学習では,生徒にとって直接経験地域である通学区や市町村規模の範囲を対象として作業的・体験的学習に取り組ませる。そして,そのことを通して自分が生活している地域に対する理解と関心を深め,地理的な見方や考え方の基礎を育てることをねらいとしている。
 平成17年10月,大和町は佐賀市や周辺の町村と合併し,佐賀市になった。平成19年10月には,更に佐賀郡3町が合併することに伴い,新しい佐賀市が誕生した。広域化が進む佐賀市についても触れる必要があると思われるが,本単元では生徒の直接経験地域である大和町内を主な学習対象地域としたい。
 佐賀市大和町は,もともと農業地域として果樹や米を栽培する農村地域であったが,近年,旧佐賀郡の町村の中でも人口が急増し,旧佐賀市との結び付きが強くなっている。これは大和町に設置された長崎自動車道のインターチェンジや環状道路の整備が進んだことによって交通アクセスが便利になったことによる。その結果として,交通量も増加し,1990年代から郊外に住宅地の造成や各種大型商業施設の進出といった経済面の効果を及ぼしている。主な商業地として平成12年9月には,大和町南部に「イオンショッピングタウン佐賀大和」が開業し,多くの人が利用する一方,地元の尼寺商店街では店舗の閉鎖や撤退が続き,厳しい経営を強いられている。

 
 本学級の生徒は,討論型の授業を小学校の時に数名経験している。また,1学期に歴史的分野で「自分が住むなら,縄文時代か弥生時代か」というテーマで教科書又は資料集に記載してあることを根拠に自分の意見を発言したり,他の生徒と意見交換することを経験している。しかし,本格的な討論型の授業,資料と自分の考えを結び付けて説得力のある主張をつくったり,お互いの主張や反論,再反論をぶつけ合ったりするような討論型の授業は初めてであると言える。

 
 指導に当たっては,身近な地域の課題を意識させるために,『大和中学校校区内に「大和ジャスコ」の他にもう1つ大型商業施設をつくるべきである。』という論題を設定する。
 まず,大和中学校校区内にもう1つ大型店舗をつくることの必要性,問題点などについて資料データを基に考えさせる。その後,立場を決めた上でつくる派とつくらない派に分かれてそれぞれの主張を考える。主張をつくる際の手立てとして,トゥールミン・モデルを基に図式化した「データ」「理由付け」「結論」の3つの枠に当てはめたワークシートを使用する。討論のときは,対立した議論の構造を視覚的にとらえ,獲得した情報を視覚化して吟味し,整理する。その後,それらを結び付けて文章化する活動を組み込むことで,判断理由を明確にさせることを検証したい。身近な地域の課題を通して,様々な視点や立場からの考えを出し合い,最終的に社会の一員としての判断を行わせたい。また,この単元の最後に生徒が振り返りをする時間を取り,2枚のワークシートを見比べることで自分の視野が広がったことを実感させ,自分の中で討論の価値付けをさせたいと考えている。
3 単元の指導目標
  ○

  ○

  ○

  ○
佐賀市大和町の特色をとらえるために,様々な資料の読み取りや資料作成,調査活動に意欲的に取り組もうとする。
佐賀市大和町の地理的事象を基にして設定した課題を,地域の環境条件や他地域との結び付きと関連付けて多面的・多角的に追究することで,地域的特色を考察する。
各種の資料を読み取り,解釈し,そこから自分の考えを構築して自分の主張を作成する技術を身に付ける。
佐賀市大和町の地域的特色をとらえる視点や方法,地理的なまとめ方などを理解し,それらの知識を身に付ける。
4 単元の指導計画 (全8時間)
学習テーマ
学習活動 資料活用の技能表現や社会的な思考・判断力を高める手立て 評価する観点

大和町のある新しい佐賀市の特色を探してみよう

 1

平成19年10月に誕生した佐賀市の特色を,景観写真や地形図,統計資料を通して,理解する。

 プレゼンテーションソフトを使って身近な地域の写真を提示し,課題を意識させる内容とする。

 

 地形図をマスターしよう

縮尺の異なる地形図の比較,距離の計算などを通して地形図の見方を身に付ける。

2点間の方位と距離の求め方については例題を示し,定着するまで練習問題を繰り返し行う。

 

 

 

もう1つ大型店舗をつくることの必要性,問題点に ついてまとめよう

 もう1つ大型店舗をつくることの必要性,問題点を考察し,どちらの立場をとるのか自分の考えを書く。
(第1次意思決定)
第1次意思決定シート

生徒の思考を促すために参考となる資料データを準備し,グループでの話し合い活動も取り入れる。
資料@
資料A
資料B
資料C

立場を決定し,討論の準備をしよう

グループごとに分かれて,それぞれの立場の主張を考える。
立論準備カード
反論準備カード
再反論準備カード

立論や反論,再反論を考えさせるために,教師が準備した資料(上記4/8を参照)を与えたり,助言をする。

 

討論を行い,それぞれの主張の評価をしよう



時7/8

討論を行い, それぞれの主張の評価をする 。
討論の記録シート

それぞれの主張の評価をさせることで,討論会の流れを振り返らせる。

 

  最終的な自分の考えを文章に表して,この学習の振り返りをしよう


8/8

自分の考えを文章で記述した2枚のワークシートを比べて,自分の視野が広がったことを実感する。
(最終意思決定)
最終意思決定シート

判断理由の中に反証や具体的な例を用いて記述させ,2つ並べて提示することで,自分の中で討論の価値付けをさせる。

 

 

 

 【資料】
 資料@:佐賀市内にある3つの大型商業施設の写真,大型商業施設の広告とフロアーガイド
 資料A:従業員数と地元採用の割合(自作資料)(データは,広報担当に質問し,回答を得たもの)
 資料B:地元商店街の昔と今の店数を比較したもの
 資料B:佐賀新聞2007年9月19日付けの記事(佐賀市中心街の人通り)
 資料C:大型商業施設広報担当へのインタビュー内容(自作資料)     
 資料C:人口1人当たりの売場面積(小売業)の推移(平成19年4月佐賀県市街地再生指針より)
5−@ 本時の学習指導 (7/8) 場所:1年生教室 時間:2校時
 (1) 本時の目標
  @

  A
討論を振り返り,それぞれの主張がどの程度成立しているのか,またどの程度重要,深刻な問題なのかを考えることができる。
それぞれの立場からの考えを,資料分析を基に分かりやすく発表し,討論の記録をメモすることができる。
 (2) 本時の展開
生徒の学習活動

教師の指導・支援
※評価規準〔評価観点〕と【方法】
本時の学習課題と学習の流れについて確認する。
大和中学校校区内に「大和ジャスコ」の他にもう1つ大型商業施設をつくるべきである,つくるべきでないの討論を行い,それぞれの主張の評価をしよう。




本時の学習課題と学習の流れを説明する。

相手が意見を言っているときは静かに聞く等討論のルールを確認する。

それぞれの立場から立論を行う。
立論(つくる側))  
立論(つくらない側)



討論の記録シート







立論は,メリット・デメリットを挙げて,根拠となる資料を説明させ,さらに,理由付けの部分まで述べさせる。
それぞれの立論が述べられた後,教師側で主張を分かりやすく解説する。
自分たちの主張を分かりやすく説明し,討論の記録をメモしている。
〔資料活用の技能・表現〕
【発言内容・ワークシート】
反論についてグループで話し合う。 作戦タイムに入る前に,それぞれの意見を整理し,反論の視点を与える。
それぞれの立場からの反論を行う。
反論(つくらない側)
反論(つくる側)  


生徒の発言を板書し,出された意見を見える形に残す。
自分たちの主張を分かりやすく説明し,討論の記録をメモしている。
〔資料活用の技能・表現〕
【発言内容・ワークシート】
再反論についてグループで話し合う。 作戦タイムに入る前に,それぞれの意見を整理し,再反論の視点を与える。         
それぞれの立場から再反論を行う。
再反論(つくらない側)
再反論(つくる側)   



生徒の発言を板書し,出された意見を見える形に残す。
自分たちの主張を分かりやすく説明し,討論の記録をメモしている。
〔資料活用の技能・表現〕
【発言内容・ワークシート】
それぞれの主張の評価をする。


【生徒のワークシート 討論の記録と評価】


【考察】
・メリットやデメリットがどの程度起こりうるかについては,主張に対する反論と再反論を見ていくことで判断させることができた。「なる」に○を付けた生徒は,主張に対しての反論よりも再反論が勝っていると判断したものと推測できる(「ならない」に○を付けた生徒はその逆)。
・価値(メリットやデメリットの重要性や深刻性)の重みについては,具体的な例を挙げて説明しなかったため理解できず,価値の大きさや質の意味を十分吟味させることができなかった。その結果としていいこと度/悪いこと度の○の大きさに違いがあまり見られなかった。

生徒のワークシート@





















討論を振り返り,それぞれの主張がどの程度成立しているのか,またどの程度重要,深刻な問題なのか,評価の仕方を説明し,考えさせる。



【それぞれの主張の評価の仕方】
@メリットやデメリットがどの程度成立しているのか,当てはまるものに○を付ける。
〔なるなる度/なる・一部なる・ならない〕
Aメリットやデメリットの部分がどの程度重要,深刻な問題なのか,○の大きさで表す。
〔いいこと度/悪いこと度〕
Bもう一方の立場と比べて総合的に判断する。




それぞれの主張がどの程度成立しているのか,またどの程度重要,深刻な問題なのかを判断し,評価している。
〔社会的な思考・判断〕
【ワークシート】



次時の見通しをもつ。 次時は討論を通して,最終的な意思決定を行い,その理由を文章で表すことを伝える。
5−A 本時の学習指導 (8/8) 場所:1年生教室 時間:5校時
 (1) 本時の目標
  @

  A
討論で吟味したことを基に,自分が重要視した討論の流れ(主張から反論・再反論まで)や具体的な例を用いて最終的な自分の考えを文章で記述することができる。
前に書いた文章と,今書いた文章を見比べて,自分の書いた文章を振り返り,自分の考えが広がったことを実感することができる。
 (2) 本時の展開
生徒の学習活動

教師の指導・支援
※評価規準〔評価観点〕と【方法】
前時の学習内容を振り返る。
前時の振り返り
大和中学校校区内に「大和ジャスコ」の他にもう1つ大型商業施設をつくるべきである,つくるべきでないについて最終的な自分の考えを文章に表して,この学習の振り返りをしよう。
議論の流れ



黒板に前時の討論の流れを提示するとともに,生徒の手元にも討論の流れをまとめたワークシートを配布し,前時の学習を想起させる。
討論を踏まえて,最終的な自分の考えをまとめる。


討論での立場を離れて判断することを確認する。
それぞれの主張がどの程度成立しているのか,またどの程度重要,深刻な問題なのかを参考にすることを確認する。
説得力のある文章の作り方について考える。
文章の説明

【文章の構成の仕方】
@立場を明らかにする
A理由(立論・反論・再反論)を述べる
B具体的な例を示す
C最後にもう一度,結論(立場)を書く
文章の構成の仕方を,教師が具体例を示して説明し,参考にさせる。
【具体例:給食を弁当にすべき】 
@給食を弁当にするべきだと思います。
Aその理由は,生徒に取ったアンケートを見ても自分の好きなおかずが食べられるというメリットを挙げた割合が多かったからです。
 弁当だと栄養の偏りが心配という意見もありますが,クラスの中にはアレルギーの子どももいます。
B給食の中にはアレルギーを引き起こす材料も含まれ,症状がひどくなる場合もあります。
Cだから,給食を弁当にするべきだと思います。  
最終的な自分の考えを文章で記述する。
文章の記述

・ワークシートを2種類準備して,生徒が選択できるようにする
最終意思決定シート




自分が重要視した討論の流れ(主張から反論・再反論まで)に印を付けさせる。その際、説得力を高めるために,具体的な例を考えさせる。
討論で吟味したことを基に,自分が重要視した討論の流れ(主張から反論・再反論まで)や具体的な例を用いて最終的な自分の考えを文章で記述している。
〔社会的な思考・判断〕
【ワークシート】
前に書いた文章と,今書いた文章を見比べて,自分の書いた文章を振り返る。
見比べての振り返り





振り返りをすることで,自分の考えを深めたり,大きく広げることができたことを実感させるような時間を取る。
前に書いた文章と,今書いた文章を見比べて,自分の書いた文章を振り返り,自分の考えが広がったことを実感している。
〔社会的な思考・判断〕
【発言内容・ワークシート】
単元全体のまとめをする。          
※ 資料等
学習指導案 アンケート 第1次意思決定シート        
立論準備カード 反論準備カード 再反論準備カード
討論の記録シート 議論の流れ 最終意思決定シート
6 授業の考察
(1) 授業を通しての成果
身近な地域の課題について,今回は特に『大和中学校校区内に「大和ジャスコ」の他にもう1つ大型商業施設をつくるべきである。』という論題を設定して,つくる側とつくらない側に分かれて討論をした。地域の実態から地域発展を考えることができた。このことにより,地域のこれからの在り方について生徒たちなりに考えることができた。
生徒の議論がかみ合うようにするため,主張をデータ・理由付け・結論の3つに分け,図式化する手立てを取った。このことで相互の立場の議論の構造がつかみやすくなり,反論や再反論を考える視点をもたせることにつながった。また,教師側からの助言や関係する資料等を配布したことも視点をもたせる点では有効であった。主張をデータ・理由付け・結論の3つに分け,図式化したものはトゥールミンの議論モデルを参考にしてつくったものである。
【つくる派】のワークシート
〔つくる派〕
・反論では,大和町にある高速道路のインターチェンジを挙げ,高速道路を使って県外から客が来ることで客は減らないという根拠を示していた。また特に佐賀が有名になっていることを具体的に述べることで,説得力のある説明になっていた。
・再反論では,まず相手の反論の予想を考えさせた。この生徒は相手が「欲しい物はインターネットで買える」と反論してくると予想した。それに対する再反論を考え,インターネットで購入するとまちがった商品が送られてくることやお金が高くなることなどを根拠にして説明していた。
【つくらない派】のワークシート
〔つくらない派〕
・反論では,欲しい物が手に入りやすくなるという意見に反論しているが,いっぱい買ってしまってお金の無駄使いになるということを述べることで,実は欲しい物が手に入りやすくなることはよいことだというメリットの重要性に対して反論を行っていた。
・再反論では,相手の反論を個人の店を大型商業施設の中に入れたらよいと予想し,それに対して伝統のある店を例に挙げて,店が大型商業施設の中に入ると買いに来た人が分からなくなるという意見を出していた。
生徒のワークシートA
討論を通して友達と意見交換をすることで,自分の意見をもつことの大切さや自分の考えが広がったことによさを感じているようであった。
生徒の反応(1) (「身近な地域を調べよう」を終えてのアンケートから)
討論型授業についての生徒の感想
【考察】
討論型授業に取り組みやすいようにワークシートを使った。左の生徒の感想に見られるように,立論・反論・再反論に関しては,ワークシートを使ってスムーズに考えることができていた。また,今回は中学生になって反論と再反論まで考えさせたことで,小学生の時との違いを実感した生徒も多く見られた。
【考察】
判断理由の記述について「むずかしい」「どちらかと言えば,むずかしい」が78%を占めた。これは,自分の考えていることをまとめて文章にすることや具体例を考える点が難しかったためだと考えられる。自分の考えを文章にすることを苦手としている生徒が多いことから,今後も継続して指導していく必要性を強く感じた。一方,「かんたん」「どちらかと言えば,かんたん」を答えた22%の生徒の多くは,文章の構成の仕方(3要素)が分かれば自分の考えをまとめて文章にすることが簡単だったことを理由に挙げていた。
【考察】
討論をする前と後で,自分の考えが変わった生徒が37.6%,考えが変わらなかった生徒が62.5%であった。また,最終意思決定で「つくる側」の立場を取った生徒が43.8%,「つくらない側」の立場を取った生徒が56.3%であった。第1次意思決定では,「つくる側」が6.5%,「つくらない側」が93.5%だったことを考えると,討論会において「つくる側」の主張が説得力のある意見であったことが理由として挙げられる。
2枚のワークシート(第1次意思決定と最終意思決定)を見比べて振り返ることで,討論をする前と後で自分の考えが変容したり,深まったことに気付いた生徒が多かった。
生徒の反応(2) (「身近な地域を調べよう」を終えてのアンケートから)
2枚のワークシートを見比べての生徒の感想
【同じ生徒が記入した2枚のワークシート】
Aさん
【考察】
・第1次意思決定のワークシートは全員同じものを使用した。最終意思決定のワークシートは習熟度に応じて生徒が記入できるように2種類準備し,生徒が選択できるようにした。このワークシートは生徒が記入しやすいように項目が書いてあり,どのように書いてよいか分からない生徒にとっては記入しやくなっていた。記入した生徒は,35名のうち28名であった。
・このワークシートを書いた生徒が,最後の振り返りの時間に2枚のワークシートを見て,第1次の意思決定の時に書いたものよりも自分の視野や考えが広がったとつぶやいていたのが印象的であった。自分の書いた2枚のワークシートを比べて見るような振り返りの時間を取ることで,自分の考えが広がったことを実感することができていた。また討論をやってみたいという感想を書いていた。
Bさん
【考察】
・第1次意思決定のワークシートは全員同じものを使用した。最終意思決定のワークシートは習熟度に応じて生徒が記入できるように2種類準備し,生徒が選択できるようにした。このワークシートは3点の要素を必ず入れることを条件としたが,あとは自由に記入させた。記入した生徒は,35名のうち7名であった。
・この生徒は第1次意思決定と最終意思決定で立場が変わった。立場が変わった生徒(特につくらない側からつくる側に変わった)が数名いた。最終的に自分の考えを書く段階で,明確な判断理由(理由の中に反論・再反論を述べていることや具体例を述べる)を挙げて文章を書けるようになり,より説得力のある意見になっていた。討論する前はただデメリットでいけないと決め付けていたが,討論した後に「つくる側」のいいところをたくさん見付けたことでこれまでの考えが変わり,最終的に立場が変わったことを実感していた。
生徒のワークシートB
説得力のある判断理由にするために,次の2つの手立てを取った。1つめは,討論の中で出された主な意見をまとめたプリントの中で,特に自分が重要と思ったものに赤で印を付けさせたことによって,自分が主張したいと思う判断理由を再度明確にすることができたこと。2つめは,文章の構成の仕方(@結論A理由B具体例)の3点を示し,具体的な例文(給食を弁当にすべき)を挙げて指導したことによって,第1次の意思決定より明確な判断理由(Aの理由の中に反論・再反論を述べているB具体例)を挙げて文章を書けるようになった生徒が増えたことである。この2つを踏まえて,今後も継続して指導していく必要性を強く感じた。
【考察】
判断理由の評価を見ると,討論後に行った最終意思決定では「十分達成」が大幅に増加した。「おおむね達成」と合わせると87.8%となり,上記の2つの手立てを取った成果であると考える。一方,「達成していない」も12.1%あった。生徒のワークシートを見ると,立場(結論)と判断理由の整合性を欠いたものが見られた。個別に,なぜそう思うのか話し合うなど支援が必要であると思われる。
(2) 授業を通しての課題
公正な判断をする材料については課題が残った。特に,価値(メリットやデメリットの重要性や深刻性)の重みについては,具体的な例を挙げて説明しなかったことで,価値の大きさや質の意味が分からず,結果として十分吟味させることができなかった。メリットやデメリットがどの程度起こりうるかについては,主張に対する反論と再反論を見ていくことで判断させることができた。最終的に生徒に多様な価値があることと,立場や場面によって価値の重みが違うことに気付かせ,その上で公正に判断できる力を付けていく必要がある。
(本時7/8の生徒が記入したワークシート@ 討論の記録と評価を参照)
生徒のワークシート@
資料については,教師側で準備したものを使用し,そこからメリットやデメリットを導き出した。限られた時間の中で授業を行うためにはこの方法も有効であると考える。しかし,時間が確保できるのであれば,聞き取り(調査活動)を家族相手に行うことで,生徒の課題意識をもっと高めることができたと考えられる。生徒の思考力を高めるには,調査活動も必要であると思われる。
討論型の授業にまだ慣れていない生徒たちが,また討論をやってみたい,討論型の授業が楽しみと思わせるような授業をつくっていく必要がある。そのためには生徒たちに討論の価値付けをさせなければならない。しかし,これまでの討論型授業では,時間が限られていることもあり,討論後は振り返りの時間を省略して教師側でまとめてしまっていたことが多かった。今回の検証授業では,最後に振り返りの時間を取ったことで,自分の考えが広がったことを実感したり,また討論をやってみたいという感想も多く見られるなど成果も得られた。このことからも討論後に振り返りの時間を確保すると有効であると言える。指導する教師にとって,討論型の授業を気軽に取り組めるような簡単な授業モデルを提案することをねらいとして取り組んだが,これからも生徒の思考・判断力が高まるような討論型の授業を継続して行っていきたい。
(注) PDFの学習指導案は検証授業前に作成したものである。Web上の指導案の展開は検証授業を踏まえて一部修正を加えたため,PDFの学習指導案とは異なる部分がある。