構想 教科書採択教材一覧(資料)

高校古典の教材選択と生徒の現状
○古典の授業時間が十分に確保できない実
文学史上重要な作品(生徒に読ませたい作品)を抜粋しての教材化。
              
ジャンルの特徴や文学史の流れが,自然と生徒に理解させられるほど多くの教材数を扱えません。そのため古典に対する生徒の関心・意欲が高まりません。

  ○生徒を古典に親しませたい
○日本文化に対する関心をもたせたい

 ※古典としての古文と漢文を読む能力を養うとともに,ものの見方,感じ方,考え方を広くし,古典に親しむことによって人生を豊かにする態度を育てる
(学習指導要領,古典,目標)

  

 現代文を導入に使い,生徒の関心を高めた上で,テーマに基づいた単元を構成していきます。そうすることで,時代やジャンルの区分を越えて作品に興味をもたせられます。文学史の理解がまだ十分でない生徒も,古典への関心を広げ,理解を深めることができます。
 また,テーマで作品をとらえる視点を獲得した生徒が,授業以外の場でも古典作品に関心をもつことも期待できます。

教材の組合せ方

 生徒に作品の結び付け方を教え,古典に対する関心を広げさせるために,現代文の導入も含めて時代やジャンルにとらわれずに,特定のテーマに基づいて教材を組み合わせていく単元を考えました。
 例えば,下のような単元構成の方法があります。

図1 単元構成の方法


 年間を通して,大きな主題に沿った単元を構成する。
主題 「人間の姿」


単元 「歌に託された思いを読む」
「さまざまな人物像を読む」
「『切なさ』について思いを巡らす」
 
 年間を通して,複数のテーマに沿った単元を構成する。
例1 大修館『新編古典T』※図2
例2 単元「古典の中に見つけた子ども」

 時代・ジャンルごとの単元と特定テーマでの単元の組合せを行う。
例1 東京書籍『精選国語総合』※図2


図2 テーマに基づいた教科書の単元例
人間の心情に基づいて単元を組む

 下のような教科書教材を中心にして単元を組む場合は,生徒の興味を引きやすいものとして,例えば,愛や悲しみを中心としたものが考えられます。
 愛を主題にした場合,教材群として表1が挙げられます。
 形態としては,次の@〜Bなどが挙げられます。

@同等の心情をもつ作品群
A人間ドラマの構成(例 出会いと別れ)
B和歌の学習との連携
 更に,興味関心を高めるためには,生徒にとって身近な現代の文学作品を,導入などで用いるとよいでしょう。

 今回は,現代を含めた異なる時代の作品を扱います。作品中の恋愛構造と恋愛を取り巻く人間模様を手掛かりに,恋愛が時代を越えた共通性をもつことに気付かせ,古典への関心を深めさせることをねらいます。


東京書籍『精選国語総合』
【平安文学にみる愛──物語を読み比べる】
和歌の力(堤中納言物語),亡き児を思ふ(土佐日記),柿の葉に書いた詩(俊頼髄脳)

大修館『新編古典T』
【笑いと知恵】
児の飴食ひたること(沙石集),十二の「子」の文字(宇治拾遺物語),中納言参りたまひて(枕草子) ,七日の日の若菜を(枕草子), 大蔵卿ばかり(枕草子)

【出会いと愛】
初冠(伊勢物語),あづま下り(伊勢物語),桐壺(源氏物語),若紫(源氏物語),お七と吉三郎(好色五人女),忘れ貝(土佐日記),道行(曽根崎心中), 浅茅が宿(雨月物語)

【歴史と人間】
道長左遷(大鏡),比べ弓(大鏡),能登殿最期(平家物語),静の白拍子(義経記),平泉(おくのほそ道)

【自然と人生】
をばすて(大和物語),行く河の流れ(方丈記),神無月のころ(徒然草),雪のおもしろう降りたりし朝(徒然草),花は盛りに(徒然草),行く春を(去来抄),漁夫の利(小林一茶)

三省堂・右文書院・第一学習社・筑摩書房・旺文社・明治書院の国語総合・古典・古典講読の教科書には該当単元なし。
表1 教材群
男女の愛
分類 作品名 ジャンル 作中箇所
出会い「一目惚れ」 源氏物語 物語 若紫(小柴垣のもと)
源氏物語 物語 野分(霞の間の樺桜)
源氏物語 物語 若菜上(女三の宮への思い)
源氏物語 物語 橋姫(霧の中の垣間見)
伊勢物語 歌物語 初冠
好色五人女 浮世草紙 お七と吉三郎
相手への思慕 源氏物語 物語 御法(萩の上露)
義経記 軍記物語 静の白拍子
雨月物語 読本 浅茅が宿
互いの思い 伊勢物語 歌物語 筒井筒
伊勢物語 歌物語 狩の使い
曽根崎心中 浄瑠璃 道行
激しい恋心 源氏物語 物語 桐壺(光源氏誕生)
源氏物語 物語 葵(車争い〜物の怪の出現)
大鏡 歴史物語 安子の芳子への嫉妬
よりをもどす 大和物語 歌物語 鹿の鳴く声
伊勢物語 歌物語 筒井筒
別れ 伊勢物語 歌物語 梓弓
思いのすれ違い 蜻蛉日記 日記 なげきつつひとり寝る夜
源氏物語 物語 若菜上(三日がほど)
親子の愛
分類 作品名 ジャンル 作中箇所
親から子への思い 竹取物語 伝記物語 かぐや姫のおいたち
源氏物語 物語 桐壺(光源氏誕生)
冥土の飛脚 浄瑠璃 新口村
土佐日記 日記 忘れ貝
今昔物語集 説話 狼と母牛
別れに思う愛 大和物語 歌物語 姨捨
源氏物語 物語 薄雲(明石の君娘との別れ)
竹取物語 伝記物語 かぐや姫の昇天
隅田川

参考文献
  世羅 博明 「<学習テーマ>を軸とした古典教材編成の視点と方法」 『月刊国語教育研究345』 2001年 
日本国語教育学会
  目 浩子  「高等学校における,人間に興味・関心を持たせる授業の進め方に関する研究−教材に見える『人間の姿』に注目した指導と評価を中心として−」 2002年 山口県教育研究所調査研究所
  大村 はま 「単元 古典のなかに見つけた子ども」 『大村はま国語教室 3』 1992年 筑摩書房
  山本 昭 ,堀  泰樹
         「『国語T』の実践的研究(3)」 『国語科紀要12』 1983年 広島大学附属中・高等学校

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