日本音楽に親しむ気持ちを育てる授業の構築
  
  
− 和楽器を導入したアンサンブル活動を通して −
  
テーマについて
  
 日本音楽に親しむ気持ちを育てる方法としては,何よりもまず和楽器のことを知ることが必要ではないでしょうか。まずは,和楽器のよさ(楽器の響き等)を体得させるために,良い演奏を聴かせることから始めます。それから,その演奏を聴いた印象を大切にしながら、和楽器の体験活動に取り組んでいきます。和楽器といえば箏,三味線,尺八,篠笛,太鼓などですが,今回は箏を中心にアンサンブルを楽しめるようなカリキュラム作りや教材の開発(編曲等を含む)の研究をし,また,教材を開発する際には,興味関心の度合い,楽器の編成,各パートの難易度等を十分に考慮した上で,アレンジに取り組んできました。このように,我が国の伝統音楽や郷土の伝統音楽の学習において和楽器を積極的に導入し,その楽器の演奏上の基礎・基本を確実に身に付け,アンサンブルを通して生徒に演奏を楽しませることこそ,身体で,あるいは,心で日本音楽あるいは和楽器の良さを味わうことのできる感動体験につながると思われます。

   
和楽器指導の現状
 
(1) 日本音楽についての実態調査
   
 平成14年8月,全日本音楽教育研究会中学校部会が実施した「新教育課程における音楽科の授業に関する調査」及び,県内の音楽の先生方を対象とした調査のデータと考察を後に述べます。
 和楽器の指導を実施した学年について,1〜3学年継続,2学年のみ,1〜2学年継続,1学年のみの順に高い数値でした。また,和楽器を扱った授業時間数は,第1学年で平均約4時間,第2学年で平均約2時間,第3学年で平均約3時間でした。しかし,約1時間という学校も意外と多いのには驚きます。授業時数が各学年約1時間ということもあり,短い時間であっても3年間継続して行うことにより和楽器への関心が維持されていくと思わます。また,授業時数についても4時間程度が適切と思われます。この実態をもとに,今回の研究では和楽器指導のカリキュラムを4時間扱いとして作成しました。次に,授業で扱った和楽器は全学年とも箏が最も多く,和太鼓や三味線がそれに続いています。学校が整備している和楽器の種類や数も,箏が最も多く1〜2面,ごく少数の学校ではありますが,10〜20面保有しているというところもありました。逆に,1面もないという学校もありました。その他の楽器についても,楽器自体はあるが,授業では取り扱っていないという実態もあがっています。必要性は感じていても,カリキュラム上の問題や楽器の保有台数や教師の経験等が原因で生徒一人一人に日本の伝統音楽に親しませるという段階まで指導できていないというのが現状ではないかと推測できます。
  
(2) 研究授業を実施する学級の生徒の事前調査(日本音楽についてのアンケート)

   アンケート6項目と選択肢・数値について,研究協力校3校の集計結果を示します。
      項 目 選択肢 A校 B校 C校
@

 
あなたはどういう分野の
音楽が好きですか。


 
歌謡曲  25  28  17
ポピュラー  13  18   
クラシック  11     12
日本音楽     10   
A

 
音楽の授業は好きですか。


 
とても好き     12   
まあまあ好き  21  26  17
あまり好きではない        15
嫌い         
B
 
音楽の授業の中で好きなことはどれですか。
 
合唱  19  14   
器楽   6  14  11
鑑賞  17  20  21
C
 
あなたは箏を見たことがありますか ある  17  40  15
ない  21     22
D
 
あなたは箏を弾いたことはありますか ある     37   
ない  32     35
E

 
あなたは次の楽器の中で知っているものがありますか

 
 19  42  16
尺八  18  14  19
三味線  26  25  23
和太鼓  21  24  24
                                  (数字は,人数)
 研究協力校においても,カリキュラムに違いがあるため,上記のような集計結果となっています。B校のように,箏が20面程度常備し,1学年より継続して日本の伝統音楽の授業が行われている学校においては,日本音楽についての関心が高いことや箏の音楽に親しむ機会が多いことが伺えます。また,C校のように,箏が1面しかなく,日本の伝統音楽の授業は行われているものの,楽器の経験がほとんどなく,生徒自身は伝統音楽に親しむ段階までは達していないと思われる例もあります。音楽室に設置されているピアノやオルガン,生徒が持参しているリコーダーなど,西洋音楽に触れることはあたりまえのように感じられる訳ですが,日本の伝統音楽は生徒の中になかなか浸透していないというのが現状でしょう。CDやDVDなどによる音や映像のみの授業でも確かに日本独特の響きや美しさを十分感じることは可能ですが,やはり,表現と鑑賞の一体化という視点から考えると,伝統音楽を体験させるということは非常に大きな価値があると考えられます。さらに,演奏することによって楽器本来の響きを体得しつつ,他の楽器との響き合いを身体で感じ,最終的に合奏の楽しみを味わうことができるのです。

  
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