授業におけるアンサンブルの形態について

   
 学級を6つのグループに分けてアンサンブルに取り組ませることにした。1グループは6〜7人とし,箏とリコーダーのパートは必ず設定し,その他はグループで工夫してもよいとした。編成は次のとおりである。

 
箏4人,リコーダー1人(旋律),トライアングル1人
箏2人,リコーダー2人(T・U),ビブラフォーン2人
箏2人,リコーダー2人(旋律・T),トライアングル1人,ピアノ1人
箏2人,リコーダー2人(旋律),ウッドブロック1人,トライアングル1人
箏2人,リコーダー4人(T2人・U2人),ピアノ1人
箏3人,リコーダー3人(旋律・T・U),ビブラフォーン1人+効果音(波の音)

 箏を全部で13面準備できたことから,アンサンブルの段階でも1グループ2面以上使用して練習できた。2人に1面が最も理想的なパターンではあるが,3人に1面であってもアンサンブルの場合は他の楽器と組み合わせることで十分に親しむことができるのである。他の楽器としては,アルトリコーダーなどを使用したが,落ち着いたアルトリコーダーの音色は日本の伝統音楽である箏とは本当によく響き合う。また,ピアノや打楽器類や効果音等を使用したことでさらにアンサンブルに厚みが加わり,豊かな響きを醸し出してくれた。ピアノを使用したグループが2つあったが,アンサンブルをハーモニーの基礎とテンポ感が支えてくれる意味では大変効果的であると思われる。

     
アレンジの工夫について

     
アレンジのポイント
 1 生徒一人一人が生かされるものであること
 2 楽器の特性が生かされるものであること
 3 主旋律と伴奏だけでなく、オブリガート等の工夫も取り入れること
 4 音の重なりの変化を取り入れること

 【「さくら さくら」のアレンジについて】 
 日本伝統音楽の代表的な曲とも言える「さくら さくら」は箏で演奏されることも多い。今回の授業においても子どもたちに箏を体験させるための最初の曲として採用することにした。「さくら さくら」は箏のみならずいろいろなアレンジが考えられる。例えば,箏でも13弦と17弦を組み合わせたものや他の楽器を加えたものであればリコーダーや鍵盤楽器等との組み合わせ等も考えられるであろう。今回の学習においては,楽譜にあるように箏の三重奏にアレンジしてみた。



アレンジの際に留意した点について次に述べたい。
箏Tは主旋律を担当する。七七八|七七八|七八九八|七八七六|の後や曲の後半の七七八|七七八の後は箏の華やかさを表現するためにも,前半は 十九十斗|十十九八|,後半は十斗|巾為斗十というアレンジも考えられるのであるが,授業計画や生徒の実態等を考え別紙(「さくら さくら」の楽譜のページ)のようにした。
箏Uは主旋律と主旋律をつなぐ重要な役割を担当する。ここで留意した点は,まず主旋律を引き立て箏Uも目立つ旋律とするところである。つまり,主旋律と箏Uの音楽がお互いに調和しながら進行していくという形にした。動きについても連続しているし,弾き方も同じ要領でできるということで初歩の段階であっても十分に弾きこなすことができると考える。
箏Vは単純に二分音符のみで構成した。生徒は,拍数を感じ取りながら演奏できるので,苦手な生徒についても十分演奏が可能である。また,生徒自身がアンサンブルに参加できているという喜びを感じることができるという点では有効な手段ではないだろうか。



 【「さとうきび畑」のアレンジについて】
 今回の授業では寺島尚彦作曲の「さとうきび畑」を使用させてもらった。詩をじっくり読んでみると,作曲者がさとうきび畑を背景にいろいろな想いを込めている。そして,平和の願いが本当に身にしみて感じられる。箏の音色はそういった落ち着いた静寂な感じとまさにぴったりではないかということから今回の箏のアンサンブル曲に採用させていただいた。
 前述したアレンジのポイントに従ってアレンジに取り組んだわけだが、実際には@ 箏の旋律の楽譜,A アルトリコーダーの旋律の楽譜,B 箏とアルトリコーダーの旋律とピアノとのアンサンブルの楽譜,C 箏とアルトリコーダーの旋律とアルトリコーダーのT・Uと鍵盤楽器の楽譜を作成した。授業でアンサンブルに取り組む場合は,@〜Cの楽譜を単独で使用するだけでなく、それらを組み合わせることでも様々な響きを楽しむことができるようにした。



 この曲のメロディーラインは,跳躍の部分がフレーズの後半のみで,比較的連続しており,その中でもフレーズの前半が八分音符と四分音符の組み合わせである。箏はTの弦をハとし,全体をヘ長調で調弦する。つまり,連続性のあるメロディーであるので,生徒が演奏するには比較的取り組みやすいと思われる。また,リコーダーで旋律を演奏する場合は,変一点ロの運指をきちんとマスターすれば,音域的には9度の幅しかないし,前述したように連続性があるため,それほど難易度は高くはないと判断する。なお,アルトリコーダーの旋律パート以外にアルトリコーダーのハーモニーパートを設けて苦手な生徒への配慮をした。単なるハーモニーだけでは活躍の場が少ないと感じたので,メロディーが静止している時に,合いの手のメロディーを3ヶ所挿入した。このように,苦手と感じている生徒をアンサンブルの中で,生かすために工夫した効果は,授業後の生徒の反応の中にも表れている。



 アンサンブルをする時に必要な要素は,ハーモニー感,バランス感,テンポ感であると思われる。ハーモニー感では,アルトリコーダーや鍵盤楽器を取り入れたことで十分な効果があった。また,バランス感においても箏を2〜4面使用し,箏を中心としたアンサンブルとしては,調和のとれたものであった。日本音楽は,基本的に指揮者を置かないこともあり,個々のテンポ感が大変重要となる。しかし,中学生段階でそこまで要求することはむずかしい。そこで,ピアノの楽譜を加えたのである。ピアノのアルペジオに乗って拍子を感じ取りながらアンサンブルが進行すると生徒は演奏しやすくなるのである。

※ 今回,授業で使用させていただいた「さとうきび畑」は,作曲家 寺島尚彦先生の承諾を得て,アレンジしました。