T.社会科の学習でどのような力をつけていけばいいのでしょうか



社会科は小学校の第3学年から中学校第3学年までの7年間で学習することになっています。
この7年間でどのような力をつけていけばよいのでしょうか?
これまでの社会科の学習を振り返るとき,小学校,中学校の連携ということが考えられていたでしょうか? 特に歴史学習では,「公民的資質の基礎を養う」という社会科の目標に照らし合わせて考えた場合,小学校と中学校の学習は,うまく連携されているでしょうか?ここでは社会科としての歴史学習の在り方を提案してみようと思います。
歴史学習の現状としては,やや知識・理解に傾斜しているように見受けられます。歴史科ではなく,あくまで社会科です。そこで,社会科として統一した力を養うための柱を次のように考えました。

意思決定能力の育成


意思決定能力とは,問題場面での自己の行為を科学的な事実認識と反省的に吟味された価値判断に基づいて選択・決定するために必要な能力であり,目的・目標を達成するために考えられるすべての解決策の中から,より望ましいと判断できるものを選択・決定できる能力である。具体的には,「何をなすべきか」「何がなされなければならないか」「どの解決策がより望ましいか」という問いに対する実践的判断を行う能力である。
 
「社会科教育学ハンドブック」(明治図書)より



私たちは,日常生活の中でも無意識にたくさんの決定をしています。
レストランでのメニューの選択,今日着用する洋服の色,テレビの番組…。数え上げたらきりがありません。でも,これらは個人的な問題です。基本的にどんなネクタイをしても夕飯に何を食べようとしても個人の裁量の範囲です。
しかし,世の中にはみんなで決めなくてはならないことがたくさんあります。地域の活性化の問題,ゴミ処理の問題,食料生産の方針,市町村の合併問題など,どれも大切な問題です。
このような大切なことに無関心でいいのでしょうか?
私たちは地域づくり,国づくりについて意見を表明する義務と権利があります。
そのような資質を義務教育の中で育成する必要があると考えています。そのような考え方を社会科に取り入れることによって「公民的資質の基礎」に迫る学習が展開されるものと考えます。




 U.歴史学習の改善


学習者である子どもたちは,未来の歴史をつくっていく主人公の一人です。
そのためには,歴史的事象に切実性もってかかわらせる工夫を行うことが大切です。歴史的事象を過去に行われた事象として客観的に調べていくのみでなく,子どもをその場に立たせることによって,リアリティーが高まり,主体的な学習が展開されていくものと考えます。子ども自身が,当時の判断の場に立つことで,よりよい世の中にするにはどうしたらいいか,自分なりに考えデータを駆使して広い視野に立った判断を「経験」していくことが可能となるでしょう。そこに,社会科らしい歴史学習の展開が見られると思います。


[本実践のポイント]
  小学校の指導のポイント 中学校の指導のポイント
学習問題設定の工夫
  • 幕末の藩政について佐賀藩を例に学習し,教育の重要性を理解させておく。
  • 維新期の改革を学制を軸に調べさせる。
  • 欧米列強が支配しているアジアの様子を調べさせ,我が国が置かれている状況を理解させておく。


  • 松浦党が,壇ノ浦の戦い,元寇,多々良浜の戦い,倭寇などの時代の転換点で大きな役割を果たしていたことを理解させておく。
  • 現在も松浦党の名残が,地名や姓に残されていることに着目させる。
  • 松浦党が,現代にも通じる民主的な自治のルールを確立していたことに着目させる。
  • 与えられた役割(プロフィール集)を理解し,役を演じられるようにさせておく。
立場設定の工夫
  • 子どもを学校アドバイザーという立場に立たせ,当時の文部卿森有礼にアドバイスを送るという場面設定を行う。
  • 当時の社会的状況と日本の進むべき状況を調べさせた上で,どのような学校がふさわしいのかを話合い,判断させる。

  • 足利尊氏から松浦党に協力要請の手紙が届き,どのような行動をとるのか,松浦党の緊急会議を開くという場面設定を行う。
  • 建武の新政期にシフトさせ,後醍醐天皇方につくか,足利尊氏方につくかを判断させる。
プランの工夫
  • 子どもが提案した学校プランを3つか4つに類型化する。
  • どのプランが当時の日本にふさわしいかをめぐって話合いを行う。
  • 最終判断を投票で行う。


  • 後醍醐天皇方,足利尊氏方,中立の3つの立場を設定する。
  • 最終判断を投票で行い,投票結果の分析を行わせる。




 V.議論の能力の育成に向けて


次の3点について,日常的に指導していきましょう。授業が活性化し,子どもたちに議論の力がついてきます。

1 意見の述べ方について
 意思決定能力を育成する学習のためには,子どもたちが自分の考えを発言することが大切です。意見の述べ方にはポイントがあります。次のような構造で意見を組み立ててみましょう。



2 反対意見の述べ方
 反対意見を述べる際には,相手の意見のどこが不十分かを述べるようにしましょう。

[話型の例]

3 データの収集の仕方
 判断するためにはデータ(資料)を基に行います。どのようなデータを収集し,どのように活用するかが大切です。次のようなデータの収集法があります。
《実物・模型,インタビュー,アンケート,テレビ・ビデオの視聴,写真,新聞・書籍・地図,統計資料など》