1.道徳の評価の考え方

(1)児童の道徳性を伸ばすための評価

 これまでの道徳の時間における評価の多くは,授業改善のために行われてきたものが多かった。今回の指導と評価の一体化の研究においては,一人一人の児童の道徳性を伸ばすことをねらいとする。


(2)一人一人の児童を共感的に理解するための評価

 道徳の評価においては,客観的に児童を見るのではなく共感的に児童の変容を見取っていきたい。それゆえ,規準に照らし合わせて児童を見る絶対評価や,他の児童と比較する相対評価ではなく,その子の道徳性の伸び(広がりや深まり)を個人内評価で見ていく。


2.評価の対象

(1)何を評価するか?
 本研究においては,「道徳性の諸様相」を評価の対象とする。ここでの「道徳性の諸様相」としては,「価値についての理解」「道徳的心情」「道徳的判断力」「道徳的実践意欲と態度」の4つとする。また,4つの諸様相の関連については,以下の図のように考える。

 かつて子どもたちは,生活する中で家庭や周りの社会から「価値」について自然に学ぶことができた。しかし,家庭や社会の教育力が低下するにつれ,「価値とはいかなるものか」「どうして大切にしなければならないのか」など「価値」についての認識が不十分なまま成長している児童も少なくない。
 道徳の時間においては,「道徳的心情」や「道徳的判断力」「道徳的実践意欲と態度」と関連させながら「価値についての理解」を高めていくことが「価値の自覚」につながると考える。
 そこで,本研究においては児童の道徳性を高める基盤となる「価値についての理解」を中心に評価についての研究を進めていくことにする。


(2)「道徳性の諸様相」とはどのようなものか?
 本研究においては,次のような児童の発言やつぶやきを「道徳性の諸様相」の具体的なあらわれとして,とらえていくことにする。

【道徳性の諸様相】
価値についての理解(人間としてのよりよい生き方についての理解)
(例)
 ○○(価値)とは,〜なことなんだ。
 Aさんのような〜(考え方・心情・行為など)が,価値あることなんだ。 
 私が思っていた価値についての考え方と今日勉強したこととは違ったなあ。
 ○○の心があれば〜(自分が幸せに,周りが幸せになど)になるんだなあ。
 ○○の心がなければ〜(自分が不幸に,周りが不幸に等)になるんだなあ。
 自分の中にも,○○な心があるなあ。
 Aさんは,たくさんの○○な心をもっているなあ。
 〜な心(行為)についてもっと知りたいなあ。
○道徳的心情
(道徳的価値の大切さを感じ取り,善を行うことを喜び,悪を憎む感情)
(例)
 ○○な心(行為)ってすてきだなあ。(大事だ,増えてほしい,嬉しい)
 ○○な心(行為)っていやだなあ。
 ○○な心をもちたいなあ。
 Aさんのような気持ちになれる(行為ができる)ってすてきだなあ。
 Aさんみたいな心をもちたいなあ。
 ○○な心をもつことができれば,(行為ができれば)幸せだろうなあ。
 ○○な心しかなければ,(行為しかできなければ)悲しいだろうなあ。
 どうしたら○○な心がもてるのかなあ。
○道徳的判断力(葛藤場面において善悪を判断する能力)
(例)
 ○○すること(行為)は,〜な理由(ものの見方・考え方)だからいいんだ。
 ○○すること(行為)は,〜な理由(ものの見方・考え方)だからよくないんだ。
 Aの考え方(行為)より,Bの考え方(行為)が〜な理由(ものの見方・考え方)だからいいな。
 Aの考え方(行為)より,Bの考え方(行為)が〜な理由(ものの見方・考え方)だから納得できないなあ。
 私がしていた〜(行為)は,価値のある行為なんだ。
○道徳的実践意欲と態度
(道徳的心情や道徳的判断力によって価値あるとされた行動をとろうとする傾向性)
(例)
 (いいと思うことを)何かやりたいなあ。
 (いいと思うことを)やってみよう。
 〜できるようになりたいなあ。
 Aさんみたいな行為ができるようになりたいなあ。
 本研究においては,「価値についての理解」を中心に研究を進めているので,4つの様相すべてが指導案に表れているとは限らない。