1 雷の素
 雷はどうしてできるのでしょうか。雲の中でできることは確かですが,どの雲の中でも雷が発生しているわけではありません。雷が発生するときとそうでないときがあります。雷の素は静電気です。物がこすれ合うと静電気が発生することがありますね。「例えば,下敷きを脇の下でこすって,頭にかざすと髪の毛が逆立ちます。また,冬の乾燥した日に車を降りるときに,衣類といすがこすれ合って,ドアに触れる直前に火花が散るときがあります。」雲もこれと同じです。雲の粒がこすれ合って静電気が発生します。激しくこすれ合うと雷が発生します。

  
2 雲の中
 落ちてくる雨粒の大きさは,0.2mm〜4mm程度ですが,雲の粒は直径でこの100分の1程度,体積で100万分の1程度の大きさです。重力によって落下はしていますが,小さいためにその大きさの割に空気の抵抗が大きく,非常にゆっくり落下しています。雲の底では蒸発をしてしまうこともあり,また,上昇気流にも支えられて,同じ高さのところに浮かんでいるように見えます。雲の粒は水滴の場合もありますが,上空は気温が低いので,氷になっていることもあります。0℃以下でも水の表面張力のために空中では凍りにくいので,水滴になっていますが,ふつう氷点下20℃程度以下の場合にはすべて氷になっています。夏の入道雲では,地表付近が30℃でも上空ほど気温が低く,入道雲の上の方では,氷点下50℃にもなっています。雲の下の方では水滴でも,上の方では氷の粒になっています。

   
3 静電気の発生
 氷の粒は,冷凍庫の霜ができるのと同様に,空気中の水蒸気が直接固体に変化することによってできます。気体の水蒸気は液体の水滴よりもかなり敏速に移動できるので,水蒸気はどんどん氷に付着して,氷の粒は急速に成長することができます。そして,重くなって落下しようとします。しかし,日射によって地表が温められ,強い上昇気流があるときは,舞上げられてなかなか落ちてこれません。雲の中で上昇したり落下したりしている間に,更に大きくなって大粒の霰(あられ)や雹(ひょう)になっていきます。大きさの違う氷の粒や霰や雹は,落下速度も違いますので,互いに衝突を繰り返します。そのとき「こすれ合う」ということが起こり,静電気が発生します。衝突したときに,一方の粒子から電子をたたき出し,電子を失った方が正の電荷に,たたき出された電子を吸収した方が負の電荷に帯電します。このとき小さな粒(氷晶)が正電荷に,大きな粒(霰)が負電荷になります。どうして大きな粒の方が負電荷になるのかについては,まだ解明されていません。大きな粒の方が重たいので,雲の下の方に移動し,小さな粒は上昇気流によって雲の上の方に移動します。そのため,雲の下の方では負の電荷が,雲の上の方では正の電荷が集まります。また,雲底に集まった負電荷によって,大地では正電荷が誘導されます。これを「静電誘導」と言います。

    
4 雷放電
 ある程度電荷が溜まってくると,蓄えきれなくなって放電をします。このとき雲の下部の負電荷は,上空の正電荷目がけて高速で移動します。これが雲内放電(専門的には雲放電)です。ところが,暗雲が低く立ちこめているときには,上空の正電荷よりも,大地に誘導された正電荷の方が近いことになります。そこで,大地目がけて放電をします。これが落雷です。

     
5 稲妻の通り道
 雲の下部に蓄えられた余分の電子は,飛び出そうとします。大地へ向かって走った電子は,中性の原子に衝突しますが,大きなエネルギーをもっていますので,原子から電子をはじき出します。電子を失った方は正電荷のイオンになります。正(正イオン)と負(電子)の両方の電荷があり,このような大気を「プラズマ」と言います。はじき出された電子も正電荷の大地に向かって走ります。正電荷のあるところには,雲からの次の電子がやってきやすくなっていますので,次から次へと雲から電子が送り込まれ,プラズマの道をいくつもの電子が突き進んで行きます。ついに大地に先頭の電子がたどり着く直前に正の電荷が登り始め(「お迎え放電」),負電荷が並んで通りやすくなった同じ道を正の電荷が雲まで登りつめます。電子よりも大きなエネルギーをもった正電荷が通過すると,強烈な閃光を放ちます。正電荷が地表から出発する前の段階で,下へ向かう電子が通った道も光ってはいますが,正電荷が通ると非常に明るく輝きます。これがまぶしいくらいに見える稲妻です。

      
6 雷の落ちる範囲
 雷雲の水平方向の広がりは,通常半径10km以下です。放電はこの雷雲のどこで起こってもおかしくありませんので,雷はこの範囲のどこかに落ちることになりますが,どこに落ちるかは予測できません。また,出発地点の真下が最も落雷の確率は高いのですが,ある程度の広がりをもって落ちます。雲から出発した電子は,大地に向かって,空気分子と衝突しながらも,できるだけ進みやすい道を通ります。複数の電子が先頭の電子の後に続いてどんどん押し寄せてきます。先頭の電子が直進し,力尽きたら,次の電子がそこから新しい道を開拓していきます。そのためギザギザな道になります。最終的に,背の高い物やとがった物に落ちます。雲の底の出発点から地表の到着地点までを直線で結んだ場合には,鉛直線に対して30°くらいにまでなることがあります。
 雲底の背丈は1km程度と低いので,ほぼ雷雲のある地域に落ちます。

       
7 夏と冬の雷の違い
(1) 夏の雷
 雷雲は上昇気流によってできます。夏は日射が強く,雲は背丈が10km以上に成長します。雲の上部に正の電荷が集まり,雲の下部に負の電荷が集まります。大地に近いのは負の電荷であるため,地表には正の電荷が誘導され,負電荷である雲の中の電子が地表の正電荷に引き寄せられて落雷になります。すぐさま,地表からは正電荷が登って行きますが,その同じ道を再び雲から電子が降りてきて,地表から正電荷が登っていくこともよく起こります。これを「多重帰還雷撃」と言います。一瞬にして10回ほど繰り返す場合もあるようです。正と負が中和されれば,それで終了です。

        
(2) 冬の雷
 冬になると,中国大陸で氷点下に冷やされた大気が日本海を渡ってきます。日本海には対馬暖流が流れており,水温が10℃くらいになっています。そのため渡ってくる大気は下から温められ,軽くなり上昇します。その際,海から蒸発した水分も上空に運ばれるため雲ができます。しかし,夏の日射のように強い熱エネルギーは受け取らないので,日本海側地方で雲は背丈が5km位にまでにしか成長しません。また,風が強く,上層と下層では風の強さが違うために,雲は斜めに上昇します。雲の上部に溜まった正電荷に誘導された地表の負電荷との間で放電が起こりやすくなります。そのため,地表から電子が飛び出し,上向きになることがあります。上向きと下向きは半々くらいの確率で発生します。
 冬の雷雲の場合,雲底も低く300〜500m程度しかありませんので,高層の建物があると,集中的に落雷があります。1回しか落雷しないこともあり,これを「一発雷」と言います。ところが,夏に比べエネルギーの大きい落雷になることもあります。
 また,日本海側の雷は夏よりも冬に多く発生しています。
 なお,夏・冬で典型的な2種類を紹介しましたが,それ以外の放電形態もあります。